2021
08.26

アフガニスタン情勢、アメリカが築いた土壌の上に中国が平和をもたらす

国際ニュースまとめ

<タリバンとの関係構築にいち早く動いた中国だが、控えめな介入は意外な平和をもたらすかもしれない> 米軍はアフガニスタンからほぼ撤退し、首都カブールはイスラム主義組織タリバンに制圧された。それでも、中国がアフガニスタンに軍を送る気配はない。 むしろ中国は、タリバンに対してはもちろんのこと、全ての当事者に物やカネを与えようとしている。これから中国が取ろうとしている道は、アメリカが示した国力と軍事力によるアフガニスタン再建計画よりもうまく、そして安上がりになりそうだ。 これまで中国がアフガニスタンに抱いてきた懸念は、地域の不安定化を引き起こすこと、そしてアフガニスタンが中国・新疆ウイグル自治区の反政府勢力への援助基地となったり、中国の抑圧を逃れようとするウイグル人の避難先になることだった。 しかしタリバンは過去20年間の経験から、テロ集団、特に大国(欧米諸国や中国、ロシア、あるいはインドまでも)を標的にしかねないアルカイダのような国際テロ組織に避難所を提供しないことを学んだようだ。既にウイグル人の武装勢力とは距離を置き、逆に中国政府に接近している。 中国はアフガニスタンの政治や統治には関心がない。アメリカとNATOがアフガニスタンで進めようとした人権の確立や国家建設の取り組みにも、関心がない。 その一方で中国は、自国と欧州を結んで築こうとしている広域経済圏「一帯一路」のレンズを通じてアフガニスタンを見ている。既に中国はアフガニスタンの北にある中央アジア諸国を通る広範な交通インフラを構築しており、パキスタンを縦断するルートも建設中だ。 この2つのルートの間で、アフガニスタンは非常に微妙な位置にある。アフガニスタン国境地帯の不安定な情勢は、この2つのルートに影響を与える恐れがあった。 アメリカが払ったコストで中国が得をする 中国が望むのは、紛争が国境を越えて波及しないことだ。アメリカがもたらしたアフガニスタンの安定は、中国が拡張主義を推し進める下地を用意した。米政府はそのために莫大な財政的・人的コストを被ったことになる。 一帯一路構想のルートは、必ずしもアフガニスタンを通る必要はない。中国からアフガニスタンに対する投資は短期的なものになり、情勢がさらに不安定になれば容易に撤退できるような形になる可能性が高い。 今まで中国は、アフガニスタンの前政権と良好な関係を築いていた。この先アフガニスタンにどのような政府が生まれようと、これまでと同じく現実的な関係を築こうとするだろう。 ===== 中国は現在、カブール近郊の銅山と北部の油田に投資している。カブール大学には、中国文化の普及を目指す孔子学院もある。こうした従来の動きが今後どうなるかは不透明だが、タリバンは中国の投資を歓迎して国を再建する意向を表明している。 タリバンの勝利は、この地域の意外な平和につながるかもしれない。もしかすると、タリバンの支配下で暮らすしかない人々の多くにとっても快適な日常をもたらす可能性がある。 アフガニスタンの新たな支配者はこれまでパキスタンと密接な関係にあり、最近は中国と緊密な同盟国として絆を強めている。20年にわたるアメリカによる介入の結果として、かつては敵対していたイランとも関係を深めた。 アフガニスタンにおける紛争の勝利者と中国との間だけでなく、この地域の中国の盟友であるパキスタンやイランとの間でも利害は一致しつつあり、これは異例の事態だといえる。しかし状況は不安定で、急速に変化している。タリバンは独立心が強く、何よりけんか早い組織だ。 パキスタンの軍情報統合局が思わぬ動きに出る可能性もある。自国のタリバン系組織「パキスタン・タリバン運動」が今回の事態に触発されるのを、黙って見ているはずがない。この地域にはほかにも、国家間の協力を台無しにしかねない小規模なイスラム系組織が数多くある。 中国独自の外交的アプローチも大きなリスク要因だ。中国政府が、浅薄にも主要な当事者に対して攻撃的な、いわゆる「戦狼外交」を試みれば、アフガニスタン情勢は再び混乱に陥りかねない。 関与はベールに覆われる いま中国の指導部が最も恐れているのは、アメリカや旧ソ連のようにアフガニスタンの泥沼にはまること。あるいは事態が思わぬ方向に進んで、イスラム主義者の反感を買うことだ。 そのため中国は、アフガニスタンへの関与をできる限り目立たない形で行っている。アフガニスタンに対する目に見える取り組みは、全てベールで覆われたものになる。投資や安全保障面の管理も民間企業が担い、融資や補償も直接的には行わないだろう。 こうした手法は、中国が過去20年間に培ってきた投資外交戦略から大きく外れるものになる。従来の戦略は大部分が大々的に公表され、国内外へのプロパガンダの役割も果たしてきた。 だが「アフガニスタンがテロ組織の温床にならないようにする」という9.11同時多発テロ後のアメリカの目的を考えれば、アフガニスタンにおける中国の取り組みが成功しようとしまいと、必ずしも悪い結果にはならない。 ===== 中国の介入がアフガニスタンの安定につながるなら、欧米諸国に広まる可能性のある好戦的なイスラム主義の撲滅に、アメリカよりも成果を上げられる可能性が高い。逆に中国がアフガニスタンに平和をもたらすことに失敗しても、外国の敵と戦っているイスラム戦士たちの関心は、中国の投資をめぐる利害関係に移り始めるかもしれない。 だが中国が米軍撤退後のアフガニスタンを思いどおりに操ることができたとしても、米軍の撤退は中国にとって深刻な結果につながる可能性がある。バイデン米政権はこれまでアフガニスタンに注いでいた軍事力と関心を、今後はインド太平洋地域に振り向けられる。そうすれば、台湾や南シナ海などに対する中国の拡張主義的な野心に対抗する上での力にもなる。 米政府にとっては、今やアフガニスタンのある南アジアよりもインド太平洋のほうが、戦略的利益ははるかに大きい。中国に長期的に対抗する上では、後者に焦点を移したほうがはるかに優れた投資になり得る。たとえアメリカの面目がつぶれ、アフガニスタンの人々が大きな犠牲を払うことになったとしても。 From Foreign Policy Magazine

Source:Newsweek
アフガニスタン情勢、アメリカが築いた土壌の上に中国が平和をもたらす