08.17
ビジネスに名文はいらぬ…マニュアル的に必要十分な文章を書く3つの鉄則
<「伝える」ことが目的のビジネス文書に、名文は不要だ。にもかかわらず、うまく書こうとしてムダな努力を重ねていないだろうか。コツさえつかめば、誰でも「相手を動かす文章」は書けるようになる> SNSの普及により、老いも若きも玄人も素人も、文章を書く機会が増えた。SNSに投稿するかは別にしても、リモートワークが日常になった今、文字ベースでのやりとりがこれまで以上に重要になっていることは間違いない。 上司や同僚、取引先からこんな指摘を受けたことはないだろうか? 「結局、何が言いたいのか?」 「根拠が弱い!」 「そのデータ、確かなのか?」 報告書、提案書、企画書、メール……。ビジネスシーンで必要とされる文章において、上記のような指摘はマイナスの印象を与える。それはつまり”仕事ができない”と烙印を押されてしまうということだ。 実力があっても、文章力の弱さが足を引っ張っているという人は少なくない。ビジネス文書を早く書き上げられるようになれば、労働生産性が上がり、自分本来の実力が発揮できるようになる。 ビジネスの現場では、川端康成のような名文家になる必要はない。スティーブ・ジョブズのような名スピーカーになる必要もない。相手をその気にさせ、こちらが思うように動いてもらうことがビジネス文章の基本だ。きれいな文章が良い文章とは限らない。 ビジネス文章には、歴然とした「型」がある。相手に伝えるための「コツ」も存在する。それは非常にシンプルなものだと、『即!ビジネスで使える 新聞記者式 伝わる文章術』の著者・白鳥和生氏は言う。 白鳥氏は、日本経済新聞社の記者として30年以上のキャリアを持つ。駆け出しの頃は、ベタ記事のような短い文章を書くのにも半日以上も四苦八苦していたが、苦手意識を克服して「伝わる文章」を書けるようになったという。 せっかく書いた文章でも、相手に伝わらなければ、ただの文字列になってしまう。では、どうしたら相手の行動を引き出すという「目的」を果たす文章を書けるようになるのか。 「読んでもらえる」と相手に期待しすぎている 企画書やプレゼンは、そもそも「読んでもらえない」「聞いてもらえない」前提で始めることが重要だ、と白鳥氏は指摘する。会話やプレゼンでも、聞き手の第一印象を決定づけるのは、視覚情報(見た目、しぐさ、表情、視線)が55%、聴覚情報(声の質や大きさ、話す速さ、口調)が38%、言語情報(言葉そのものの意味、会話の内容)が7%と言われている。 ===== この「メラビアンの法則」を文章に置き換えれば、文章は7%しか読まれないということかもしれない。一方で、文字は視覚情報でもあるから、文章全体の「見た目」(レイアウト)が55%を占めるとも考えられる。 中身を吟味する前に、パッと見の印象で、「読む」「読まない」は判断され、たとえ読み進められたとしても、読まれて当然と言わんばかりのスタンスで書かれたものを、最後まで読んでもらえる可能性はほぼない。 読み手はどんな性格でどんな立場にあるのか、どんな課題を抱えているのか。まずは相手を知る努力や準備が、「説得力」や「納得感」のある文章をつくる前提なのだ。 そもそも、相手に伝えるためには、「ファクト(事実)」「ロジック(論理)」「数字(データ)」の3つの要素が必要だ。小さな新聞記事であっても、必ずこの3つの要素で構成されている。白鳥氏が言うには、自分が書いた文章に、この3つが詰まっているかをまず確認することが、伝わる文章への近道なのだという。 相手の疑問に答えているか? 文章の書き方というと、まず「起承転結」が思い起こされるだろう。しかし、新聞記事の文章は「逆三角形」構造になっていることをご存じだろうか。多くの場合、記事の最初の段落に5W1Hの要素が含まれている。この基本情報が冒頭に配置され、その後も重要度が高い情報から配置されていく。 新聞記事は紙面が限られているため、締め切り間際に重要なニュースが入ってきたりすると、スペースに収まらない場合がある。そのため編集担当(整理部記者)が後ろから文章を削っていく原則があるためだ。 この形式の文章を書くために大切なことを、白鳥氏は「書き手が全容を理解していること」とする。でないと、「何をどう伝えたいのか」を一言(一文)で要約し、伝えたい要素から優先的に並べることができないからだ。組み立てがが「頑丈」であるかどうか、書き始める前に確認しておきたい。 こうしたシンプルな構造を頭に入れた上で、少し長い文章を書く場合に意識したいのは、①対比②理由③事例を充実させることだ。根拠(理由)や事例を挟み、結論を説明・補強する。そのためのテクニックの一つにPREP法(Point=結論→Reason=理由→Example=事例→Point=結論)がある。 PREP法は、いわゆる三段落構成のSDS法(Summary=要点→Details=詳細、Summary=要点)の「詳細」部分に理由や事例を加えて「要点」を補強したものと言える。白鳥氏はこれに、自分の主張への疑問や反対意見を想定し、それに対する回答をExample=事例の部分に入れていく構成を勧めている。①意見→②理由(なぜなら~)→③相手の反論予想(確かに~)→④反論(しかし~)という構成だ。 白鳥氏によれば、この構成なら自説を一方的に主張するのではなく、相手の言い分を受け止める印象になり、文章の説得力や納得感が格段に高まるという。独りよがりな主張ではなく、いろいろな立場にも目配りしていると思ってもらえるからだ。 ===== 文章を書く前にやること テクニック以前の「そもそも論」に立ち返ってみよう。 例えば、企画書などの文章をまとめようとしたとき。まず考えるべきは、以下の通りだ。 ・何について書くのか ・どういう目的で書くのか ・誰に読んでもらうのか 当たり前のことだと思うだろう。しかし、ここがブレてしまっては、テクニックを駆使したところで文章としては成り立たない。読み手がどんな場面で、どのくらい時間をかけて読むかを意識した上で、書き始める前に箇条書きして整理しておきたい重要ポイントだ。 また、どんな文章であれ、タイトルを付けてみることも重要だと白鳥氏は言う。書き始める前に考えておくと頭の整理にもなる。 メールのタイトルも同様で、「全体会議の件」「打ち合わせの件」「お願い」といった紋切り型のタイトルでなく、「全体会議の配布資料の件」「新規出店オーナー様との打ち合わせの件」「代理出席のお願い」とすることで、開封されないままスルーされることは少なくなるはずだ。 タイトルを意識することで、その根拠や前提となるキーワードが浮かび上がってくるというメリットもある。キーワードは、これから書く文章の中で最も訴えたいことは何かと密接に関係してくるから、相互に影響してくるわけだ。 ビジネス文章を書く上で大切なのは、事前に集めた大事な情報と、そこから導き出した主張と推論などを「モレなく、ダブりなく」書くこと。間違った情報が載っていてはそもそも失格だが、大事な情報を書きもらしている場合も不合格とされてしまう。 自分がミスしがちなポイントを頭に入れながら、最終的に書いたものを音読することで、「文章の品質管理」を高めていくことも重要だろう。 『即!ビジネスで使える 新聞記者式 伝わる文章術』 白鳥和生 CCCメディアハウス (※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)
Source:Newsweek
ビジネスに名文はいらぬ…マニュアル的に必要十分な文章を書く3つの鉄則