01.10
<北朝鮮内部>金正恩政権が破格の10倍超の「賃上げ」(3) 労賃はカード払いで国から食糧買わせる仕組み 「反市場政策」に突き進むが…
◆予想される問題点の数々
あらためて整理すると、金正恩政権が目論むのは、(1)食糧の配給制と専売制の混合策によって食糧流通を国家に一元化すること、(2)住民の私的な経済活動を抑制し、配置された職場に出勤させること。これは集団主義を強化するために、できるだけ多くの人を組織生活に組み込もうという意図だと言える。反市場政策の一環であることは間違いない。
たが、金正恩政権の新政策は目論見通りに進むだろうか? もっとも憂慮されるのは、出勤者に対する職場を通じた配給と、「糧穀販売所」での販売だけで絶対量が足りず、住民たちが暮らしていけないことだ。また、そもそも食糧の配給と専売を安定的に続けられるのか、すなわち、新政策を続けていくために食糧を国が確保していけるのか、はなはだ疑問である。
北朝鮮では毎年3月頃から「ポリコゲ」と呼ばれる収穫の端境期が始まる。前年秋の収穫分を消費して在庫が減り、農村は飢えに苛まされ、軍兵士への支給が減って兵営に栄養失調が蔓延する…そんな事態が毎年繰り返されてきた。
また、大幅に引き上げられた労賃を払い続けることができるかという問題もある。企業ごとに差があるとはいえ、現在の北朝鮮の工場・事業所は、施設や設備の老朽化と資材や燃料の不足で、多くが稼働不良の状態だ。出勤しても仕事がない、企業が不足する資金を稼ぐために、従業員を集団で業務と関連のない建設現場に投入するという現象が数多く報告されている。
食糧の流通を国家が一元管理して人民を統制・服従させようという「カロリー統治」は、経済合理性、採算を考えても持続可能か大いに疑問である。金正恩政権の新たな食糧管制度は、「ポリコゲ」が始まる春先に試練に立たされる可能性がある。(了)
<北朝鮮内部>金正恩政権が破格の10倍超の「賃上げ」(1) 国営企業や公務員の労賃を一斉にアップ…それでも月収500円程度
<北朝鮮内部>金正恩政権が破格の10倍超の「賃上げ」(2) 収入増なのに住民たちが不安募らせる理由とは… 目的は「カロリー統治」
<北朝鮮内部>金正恩政権が破格の10倍超の「賃上げ」(3) 労賃はカード払いで国から食糧買わせる仕組み 「反市場政策」に突き進むが…
- <北朝鮮内部インタビュー>12月19日恵山の公開銃殺はこのように行われた わずか4カ月間に3度執行の異常 「職場から隊列組んで見に行かされた」
- <北朝鮮内部調査>水産業は今どうなっているか(1)コロナと資源減で打撃 金政権の統制強化で没落した漁民も
- <北朝鮮内部>11.26地方選挙めぐる大異変(1) 史上初か 予備選実施に異例の複数候補 秘密投票を実施 「100%賛成強要」に微かな変化
- <北朝鮮内部>現役警備兵からの聞き取り(1) 朝中国境に地雷埋設か 「どこに埋められているかわからず兵士たちも恐怖」
- <北朝鮮内部>農場現地からの最新報告(1) 収穫は昨年より好転も不作か 深刻な営農資材不足で限界 (最新写真4枚)
Source: アジアプレス・ネットワーク
2