01.03
2024年は、民主主義の転換点になるかもしれない。政治と人の関係性を結び直す方法は?【中満泉さん×岸本聡子さん×能條桃子さん鼎談】
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統一教会と政権の癒着、パーティー券をめぐる裏金の問題…長く続く自民党政治の膿が出続けている。
一方、本来政治を変える力があるはずの選挙において、日本の投票率は低く、政治への不信感も根強い。想像している以上に、「民主主義の危機」が近づいているのかもしれない。
突破口はあるのか。希望は地方政治にありそうだ。
国連事務次長の中満泉さん、杉並区長の岸本聡子さん、20〜30代の女性立候補者を支援する「FIFTYS PROJECT」を主導する能條桃子さんとハフポスト日本版の泉谷由梨子編集長が集い、語り合った。
日本の政治はヤバいのに、なぜ投票率が低いんだろう
泉谷由梨子編集長(以下泉谷):
前編では日本の政治の問題が次々と明らかになる中、中満さんから「なぜ日本は投票率が低いのか」と質問が出ました。衆院選でも参院選でも、投票率は50%台まで落ち込み、低い水準のままです。
能條桃子さん/FIFTYS PROJECT代表(以下能條):
本来は野党が選択肢として存在感を示していかなければならないと思いますが、それができていません。そもそも、ただでさえ政治家になるハードルも高いのに、新しい政党を作るには運営費のほか、立候補者の供託金を負担することもあるなど多額の資金が必要で、世襲議員や資産家じゃないと難しい現状があります。
だから結局、普通に暮らしている人たちの気持ちを吸い上げるような動きが全然起きないことが根本的な問題ではないでしょうか。
岸本聡子杉並区長(以下岸本):
世襲政治や既得権益の利益配分を一番に慮った政治は、ほとんどの人には関係がうすいわけですよね。政治が変わることで生活が変わるという体験が乏しいと、選挙に行っても社会は変わらないという無力感が生まれやすいと思います。
経済成長していた時代は一定のトリクルダウンもあり、安定した社会を作ってこれたことは日本社会の評価できる面かもしれません。しかし、社会経済状況が大きく変わる中、経済成長偏重のひずみや課題が明らかになりました。環境問題やジェンダー平等、格差の拡大、多様な生き方や在り方の尊重、外国籍の方々の人権など、変わらなければならない状況に政治が対応できていないのだと思います。
中満泉さん/国連事務次長(以下中満):
国連は国内の政治のことに口を挟むことは基本的にしません。ただ、国内の社会問題や分断が、直接的に国際社会の様々な問題に直結しています。その根本を見直さないと、世界全体の平和や公平さ、繁栄や経済的なことも含めて、本当の意味で対応できないという問題意識を国連事務総長も持っています。
事務総長は2024年9月に「未来サミット」というものを招集する流れの一環で、「政治と市民との『社会契約』をもう一度見つめ直す必要があるだろう」と提言しています。国連事務総長の立場で言うには、異色の内容とも言えます。
そもそも「私たち市民がこういうことをして欲しいから、あなたに政治の場に行ってもらう」のが政治家ですよね。私たちがボスで、向こうがパブリックサーバント(公僕)な訳です。その関係性をもう一回見つめ直さないと変わらないんじゃないかという気がしました。市民一人ひとりが責任を自覚して、責任を行使する必要があるのではないかと。
政治と人の関係性を結び直すには
泉谷:
東大の宇野重規教授は著書『民主主義とは何か』の中で、世界の民主主義の危機は「代議制民主主義の危機」なのではないかと指摘しています。民主主義の原点は市民が全員参加する形だったのが、代議制にしたことで政治と市民が離れてしまったと。
岸本さんが掲げている「ミュニシパリズム(地域主権主義)」にも通じるところがあるのではないでしょうか?
岸本:
中満さんもおっしゃっていた「社会契約」、つまり市民と政治の信頼関係を、もう一回築いていかなきゃいけないっていうことだと思います。
自分たちの代表者を選ぶことができる権利は先人たちが勝ち取って来たもので民主的な社会の土台です。ミュニシパリズムを一言でいえば、「地域のことは地域で決める」。各地域で市民が主体的に自治を実践するにあたって「参加型民主主義」の手法は有効だと思います。
能條:
FIFTYS PROJECTに参加した議員は、議会の質問前にイベントを開いて、何を質問するかみんなで考えることもあります。やっぱり、せっかく自分の推しを当選させたなら、それで終わりじゃなくて、その後も気になって参加していきたいと思って動いている。その動きも参加型民主主義ですよね。
岸本:
そうですね。参加した市民が熟議するためには、市民がきちんと情報を持って学習し、政府側と「同じ土俵」に立つことが重要です。そのためには、政府がしっかり情報開示をしていかなければなりません。
テーマごとに熟議の土俵を作り、様々な属性の人が参加して、イエス・ノーではなく熟議を通じて多様な意見が大まかな合意となり、政策に反映される。それを具現化しようと思って行っていることの一つが、無作為抽出(くじ引き)で選ばれた区民が参加し、有識者からの情報提供を受けながら議論する気候市民会議です。
熟議した結果を政策にどう反映させていくかが課題です。代議制の否定と懐疑的な声もありますが、気候変動危機の緊急性と難しさを考えれば、社会的な合意形成が不可欠で代表者だけに任せておけません。だから世界中で実践されているのです。
能條:
市民会議が重要性を持たないって思われてしまうのは、「市民にそこまでの能力がない」と思われているからだと思います。市民を信頼していない。若者に対しても同じだと思います。
私は今、立候補年齢の引き下げを求めて公共訴訟をしています。日本では18歳から選挙で投票はできても、立候補できるのは25歳(衆院議員や市区町村長など)、30歳(参院議員や都道府県知事など)です。
参政権は、投票できる権利だけではなく、立候補できる権利も含めたものです。実際に議員を選ぶのは有権者だけれど、立候補する権利は若者にもあるはずだと思っています。
かつての女性もそうでした。女性の参政権獲得が日本で実現するまでは、女性自身も含めて、「女性にそんな能力があるのか」と、みんな不安でずっと話し合っていました。全ての女性が参政権が欲しいと言って権利を獲得したわけではなく、権利があるから学んで、自分はその権利に等しいんだと思えるようになったのと同じで、若者が被選挙権を獲得することで変化が起きると考えています。
中満:
権利は、与えられるものではなく、本来持っているもの。本来持っているのに使えない状況であれば、使えるように奪い返さないといけません。
変化は、誰にとっても、どんな社会にとっても、やはり怖いものなんです。本当に変化を起こしていくためには、「こういうことをやることによって、これだけ良くなれます」と言って、実践していく過程を、透明性を持って見せていく。そうすることで市民一人ひとりが納得していき、次のステップに進んでいく。それをボトムアップでやっていくことが日本でも世界でも本当に大事だと思います。
2024年は、民主主義の転換点になるかもしれない
中満:
世界ではウクライナに加えてガザと、大きな戦争を2つ抱えているという状況です。しかもその影には、スーダンやミャンマー、アフガニスタンなど、忘れられつつあるような紛争や危機がいくつもある。本当にここまで状況が悪くなるかと思うくらい、非常に難しい状況です。
そんな中、2024年はアメリカ、ロシア、インド、台湾をはじめ、多くの国と地域で非常に重要な選挙が行われる選挙の年です。先ほども言った通り、国内問題は国際社会と直結しています。生活に直結する地方の選挙から、市民一人ひとりが力を合わせて変化を起こしていく。そうしないと、おそらく生き残っていけない転換点に私たちはいると思います。
能條:
市川房枝さんの本を読んで衝撃的だったのが、女性の権利獲得のために動き続けた市川さんでさえ、戦争が始まった時には、反対に回るのではなく、戦争を活用して男女共同参画を進めようとしたことです。
今、沖縄の米軍基地を巡って起きていることや防衛費が膨らんでいるのを見ると、日本が直接戦争しないとしても、「現実的にしょうがないじゃん」という、戦争をしたあの頃と同じような空気なのかなと感じています。
市川さん自身は後に戦時中のことを反省していますが、「軍縮が必要、反省が必要」と言い続けるためにはどうすれば良いと思いますか。
中満:
「これ一つだけやればOK」ということは残念ながらありませんが、根本的には、一人ひとりの「モラル・コンパス」が重要だと思います。自分の信念やモラルに基づいて、違うと思ったことに対しては発言をする。その勇気を持つためには、スキルや知識を持たなければいけないし、仲間も作らなければいけないし、相手の主張を理解する必要もあります。
ぜひ日本の若い人たちには、政治的なことも、色々な課題についても、声を上げることがかっこいいことだと認識してほしいですね。自分たちがこうしたいと思うことを、声に出して要求する。そのために活動することは当然のことです。
泉谷:
残念ながら私の見ている世界では、どんどんその逆に走っている気がしています。声を上げることは迷惑をかけるとか、人になにか要求するような「かっこ悪い」行為だと。自分だけの力で、努力によって得た経済力で勝ち取る成功だけが良いことだというような「自己責任論」が強まっている気がしています。
岸本:
私はロスジェネの世代ですが、社会的に作られた格差を個人に押し付ける自己責任が政治によって都合よく使われました。人間は社会的な存在で、本来人は社会的な目的のために力を発揮したいと思っています。
政治や社会問題に関わっている私や能條さんの周りには、楽しいコミュニティが広がっている。家族内や職場や学校で感じてきた不合理な経験が、ジェンダー論やフェミニズムと出会ったり、同じ体験を共有できる仲間と出会ったりしたとき、人は勇気づけられます。自分が居心地の良いコミュニティを作って、自分の幸せが社会のウェルビーイングと繋がっていく。その先に政治が見えてきます。
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どうすれば女性の政治家を増やし、日本の根強いジェンダーギャップを解消できるのか。
中満さん、岸本さん、能條さん、泉谷編集長で語り合った前編はこちら。
Source: HuffPost