08.14
【独占インタビュー】菅首相「五輪で若者や子供に夢を与える機会を提供したかった」
<コロナ禍でのオリンピック開催を貫いた菅義偉首相が語る中国と台湾、経済政策、温暖化、そしてスケートボード> 夏季オリンピック開催中の東京で、菅義偉首相がニューズウィーク米国版の独占インタビューにZoomで応じた。コロナ禍の五輪や台頭する中国、日本経済の再浮揚という難題について菅は何を語ったのか(聞き手はナンシー・クーパー編集長とワシントン特派員のビル・パウエル)。 ──パンデミック(世界的大流行)の最中に五輪を開催することには、日本国内でさまざまな反対意見があった。 大会前は問題もあったが、こうして始まると、アスリートの素晴らしいパフォーマンスというスポーツの力に多くの市民がとても感動し、勇気づけられている。多くの人がテレビで観戦して選手を応援している。反対の声はそれほど多く聞こえてこない。 ──今後、日本の経済政策の優先順位は。 首相就任以来、規制緩和は私の最重要課題の1つだ。規制緩和を進め、既得権益を打破して、成長の次の段階への突破口を開く。 日本経済の成長を牽引するためには、「グリーン」と「デジタル」を連携させなければならない。私は就任後、2050年までにカーボン・ニュートラルを実現するという目標を掲げた。 地球温暖化対策が経済活動を制約するべきではない。そこで、発想を大きく転換して、温暖化対策がイノベーションへの新しい投資を生み出せると考えた。こうして策定したのが、グリーン成長戦略だ。洋上風力発電や水素など14の分野で目標を定めている。 2兆円規模の基金の設立や税制改革、国際的なルール作りなども行っている。これらの政策を総動員し、新しい技術を確立して事業化につなげる。2030年までに140兆円規模の経済効果とインパクトを見込んでいる。 もう1つ、デジタル庁を創設する。かねて日本経済はデジタル化が遅れており、パンデミックが始まって以降、さまざまな問題が浮き彫りになった。今こそ広範なデジタル化に着手しなければ、日本を変えることはできない。そこで(行政手続きのデジタル化を主導する)デジタル庁を9月1日に発足させる。 民間部門のデジタル化も推進する。リモートワークや遠隔医療を拡大して、オンラインで医療サービスを受けられるようにする。地方でも都会と同じように働くことができるようになれば、日本経済の活性化につながるだろう。 ===== ──中国からのサイバー攻撃にはどう対処するか。 経済大国となった中国は、国際ルールを守り、大国としての責任を果たすことが極めて重要だ。これは日本経済だけでなく、世界経済の発展にとっても重要になる。 サイバーセキュリティーに関しては、アメリカだけでなく、同じ考えの国々とも緊密に連携する。官民一体の取り組みになるだろう。アメリカとの間ではハイレベルな機会を活用したい。中国ともコミュニケーションを続け、問題を一つ一つ解決しながら、日本の立場を主張するべき場面では主張する。 ──中国をルールに従わせるために、日本は何ができるか。 貿易や最先端技術をめぐる競争などの問題は、国際社会も懸念している。(中国との)考え方の相違もある。日米の信頼関係を基に、協力していくことになる。 サイバー攻撃や安全保障などの分野は特に、同盟国や、同じ考えの国々の協調がとても重要だ。中国が関与するこれらの問題は、協調して対処する必要がある。 ──中国から撤退して日本国内や東南アジアにサプライチェーンを移す日本企業に、補助金を出している。 安定したサプライチェーンは、安全保障の観点からも非常に重要だ。単に中国を切り離そうというわけではない。しかし、企業がサプライチェーンを日本国内に戻すことや、海外のサプライチェーンを中国からASEAN(東南アジア諸国連合)諸国に広げ多元化を図ることを支援している。 ──台湾をめぐり米中が対立した場合、沖縄の潜在的な脆弱性をどう考えるか。 沖縄の人々は日本国民であり、従って沖縄を防衛するのは当然のことだ。沖縄には多くの米軍基地がある。日米同盟に基づいて、沖縄が確実に守られる。これは日本政府の非常に重要な目標だ。 ──日本の防衛費についてどう考えるか。 安全保障をめぐる環境は厳しさを増しており、日本国民の命と平和な暮らしを守ることは、政府の最も重大な使命だ。宇宙やサイバー空間、電磁スペクトルなど全ての領域で、日本の能力を有機的に統合して防衛力を高めていく。 厳しい財政状況でも、必要な防衛費は予算化されるだろう。ただし、改めて言っておきたいのだが、日本政府は防衛費をGDPの1%以内に抑えるというアプローチは取っていない。 ── バラク・オバマ米政権(当時)が最初に提案したTPP(環太平洋経済連携協定)に、アメリカが復帰することを期待しているか。 アメリカが提案したTPPにアメリカが参加しなかったことは、非常に残念だ。今は日本が主導している。イギリスなどほかの国々も参加を希望している。自由貿易の拡大は非常に重要であり、多くの国がTPPに参加することは戦略的にとても重要だ。 今年は日本が議長国として、自由で公正な貿易の促進に努める。率直に言って、私はアメリカのTPP復帰を望んでいるが、それには困難もあると理解している。 ===== ──五輪開催を決意した理由は。そして、大会で心に残っている場面は。 新型コロナに直面しているこの世界は、今こそ団結しなければならない。人類の英知をもってすれば、この危機を乗り越えることができる。それを世界に示した、そういうメッセージを発信することが重要だと思った。 前回、東京で五輪が開催されたとき私は高校生だった。当時の感動は鮮明に覚えている。記憶に焼き付いている。オリンピックとパラリンピックは国民に強い印象を残す。現代の若者や子供たちに、夢を与える機会を提供したかった。人類の連帯、相互理解、調和の取れた発展。これはオリンピック精神であり、その精神に基づいて、私は大会の開催を決断した。 心に残っている場面は、新競技のスケートボードで日本が男女とも金メダルを獲得したこと。日本ではマイナーなスポーツとされていたが、これで一気に普及するのではないか。金メダルを獲得した女子選手はまだ13歳! 今大会最年少の金メダリストだ。
Source:Newsweek
【独占インタビュー】菅首相「五輪で若者や子供に夢を与える機会を提供したかった」