12.12
失われた30年の突破口は「ある」。データが示した、日本の経営者が今こそやるべき改革とは【長野智子さんインタビュー】
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日本の「失われた20年」は「30年」になった。GDPは4位に転落し、少子化は止まらず、労働力人口も減り続けている。そんな日本の「負のスパイラル」に閉塞感を覚える人も多いのではないだろうか。
しかし、「データが導く『失われた時代』からの脱出」を上梓したジャーナリストの長野智子さんは、「この失われた時代から脱出できる可能性はある」という。
「合理的で危機感のある経営者は既に行動を始めています。データは出揃い、やるべきことも分かっています」
企業の業績にもレジリエンス(回復力)にも投資にも直結する、日本企業が取り組むべき「突破口」とは?
業績が良い企業の共通点
ROE(株主資本利益率)、ROS(売上高利益率)、ROIC(投下資本利益率)が良い企業には共通点があるのをご存知だろうか。
モルガン・スタンレーの調査によると、「組織のあらゆる階層に女性が配置され、会社役員の性別バランスが取れている企業」は、そうでない会社に比べて平均収益が高いという。
内閣府男女共同参画局の調査でも、女性役員が多いほど、ROE、ROS、ROICが高いという調査結果や、女性活躍が進む企業ほど経営指標が良く、株式市場での評価も高まるという結果が出ている。
「なんだ、ジェンダーの話か」と記事を閉じようとした人、ここで記事を閉じればいつまで経っても状況は変わらない。今回は徹底的にデータと経済の話をするので、もう少し読み進めてほしい。
他にも多様性の高い企業が有利だと示すデータはある。予測不可能な時代において重要な「レジリエンス」は意思決定層に男女混在する企業の方が高いと示すレポートや、男女のバランスが取れたチームの方が投資のパフォーマンスが高いというデータもある。
別の言い方をすれば、「男性9割の組織の限界」がもう目に見えているのだ。長野さんが取材した、大手商社・丸紅の柿木真澄社長はこう危機感をあらわにした。
「これまでのビジネスモデルを引き続き拡張していくことに限界があると感じていました。あと10年たてば、今のビジネスはなくなるかもしれない。つまり、新しい需要を掘り起こす必要があるわけです。男女比1:1の社会で、9割が男性という同質性の高い組織が、ライフスタイルや価値観の変容してきている社会の課題を解決できますか?」(「データが導く『失われた時代』からの脱出」,長野智子著)より引用
その危機感から、丸紅は2021年1月、「総合職の新卒採用に占める女性の割合を現状の2〜3割から、2024年までに4〜5割程度に引き上げる」と発表。すると、これまで他業界・他商社を志望していた女性からのエントリーが増え、発表前の20年度には22.8%だった女性採用は、23年度には女性採用は39.4%まで上昇したという。
長野さんは、「この施策で興味深かったのは、女性だけでなく、『先進的な取り組みをする企業でチャレンジがしたい』と強く志望してくれる男性も増えたということです」と言う。
「他にも、例えばフェムテックの研究開発が進むことで、男性特有の健康の問題にも改めて注目が集まり、『メイルテック』市場も急激に伸びるなど、潜在的な市場が発掘されることもあります。このようにあらゆる分野に性差分析を取り入れてイノベーションを起こす『ジェンダード・イノベーション』の市場は10兆円規模とも言われています」
研究はし尽くされた。どんな制度をどのように広げていくべきか
組織の多様性を高めることが、企業の業績にもレジリエンスにも投資にもつながることはデータで明らかになっている。では、どのようにジェンダーギャップを解消していくべきか。「既に研究はし尽くされている」と長野さんは指摘する。
「日本で言うと、単純に女性の労働人口が増えれば良いわけではありません。非正規雇用の女性が増えても、男女の賃金格差が大きく、国全体の生産性やGDPへ与えるインパクトは少ない。女性の管理職や役員を増やさなければ意味がありません」
どうすれば女性の管理職や役員が増えるのか。前提として、正規雇用であっても育児や介護などと仕事を両立でき、機会や情報が公平に提供され、長時間労働を強いられず、様々な人が長く働けるなど職場環境の整備が必要だ。
「女性社員のメンターを男性にすることも有効です。よく女性には女性のメンターをつける会社も多いと思いますが、これだけ上層部に男性が多い状況で、女性の横の連帯だけでは状況を変えられない。男性メンターが女性を上層部に引っ張り上げるようにするなど、男性も巻き込んだ『縦の連携』が必要です」
長野さんの著書「データが導く『失われた時代』からの脱出」もまた、「縦の連携」を生み出している。「データで多様性がなぜいいのかを説明してくれているので腹落ちしやすいなど、男性からの評判も良いです」と長野さんは言う。
長野さん「希望は100%」
特に若い世代で、今の日本社会に絶望を感じている人も少なくない。Z世代のカンファレンスで「絶望がデフォルト」と言った人もいた。
長野さんはどうだろうか。聞くと、「希望100%」と言い切った。
「若い世代の方が抱えている絶望は、大人たちが作ってきた社会の仕組みに絶望してるわけですから、根深いものだと思います。私が感じてるのは、『当たり前のことに気づけば変わる』という希望です。世界の国々にできて、日本ができないわけがないじゃないですか」
中には、「活躍という言葉が重い」「管理職になりたくない」という人もいるだろう。長野さんは「誰もが活躍しなければならない、ということではない」と言う。
「変えるべきは生き方の選択肢が、生まれながらの属性によって決めつけられたり、入り口を狭められたり、不当に評価される状況です。『女性の役員増えた方がいいよね、 ブームだし、SDGsだし、ESGだし』と総論で賛成しながら、いざ具体的な話になるとシャッターを下ろし、各論で反対になる状況から一刻も早く脱して、『経営の危機』として議論を進めてほしいですね」
Source: HuffPost