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育児中の社員に「なりきって」仕事をしてみた結果…あいおいニッセイがプロジェクト、発熱の呼び出し「気持ち理解できた」
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「保育園から呼び出しがあったので早退します」「子どもの熱が下がらないので明日お休みさせてください」
働きながら子育てをしていれば、必ずと言っていいほどこのような状況を経験します。
しかし、早退したり、休みを申請したりするのに葛藤があるという人も多いのではないでしょうか。
上司から何と言われるだろう、同僚に申し訳ない、取引先にも伝えなければーー。様々な感情が入り乱れ、自分を責めてしまう人もいるかもしれません。
そんな中、損害保険大手「あいおいニッセイ同和損害保険」(東京都渋谷区)が、「なりきりプロジェクト」という取り組みを実施しました。
子どものいない社員が育児中の社員になりきり、「仕事中に突然舞い込んでくる早退要請や休暇要請を体験する」といったものです。
育児や介護など、これからは「仕事と何か」を両立する社員も出てきます。
そんな将来を見据え、仕事の属人化などの業務の見直しに繋げるきっかけ作りにしたいという狙いがあったそうです。
このプロジェクトはどのような効果を生んだのか。また、参加者が感じたことは何か。
プロジェクトのフィードバックが初めて行われた11月20日、ハフポスト日本版は、同社人事部ダイバーシティ推進室の宮岸安弥子さんと池島由里子さんにインタビューしました。
育児中の社員になりきって仕事をしてみる
ーー「なりきりプロジェクト」の概要や実施期間などを教えてください。
「なりきりプロジェクト」は、子どものいない社員が2週間の間、育児中の社員になりきるというものです。
私たちは「なりきり社員」と呼んでいますが、突発的な退社要請や時間を制約した働き方を体験してもらいます。
具体的には三つの想定があり、子どもの発熱による「翌日の休暇取得要請」、保育園からの電話で子どもを迎えに行く「急な早退要請」、保育園の迎えに合わせて退社する「定時退社(午前9時〜午後5時)」です。
例えば、「急な早退要請」では、なりきり社員に「お子さんが発熱したので迎えに来てください」と人事部から連絡がいきます。
電話を受け取った後は保育園に迎えに行くことを想定し、上司や関係先への報告、別の社員への業務引き継ぎをしなければなりません。
そして、実際に家に帰ってもらいます。
プロジェクト自体は6月から練り始め、9〜10月に実施しました。本日、プロジェクト参加者からのフィードバックが実施されたところです。
ーー斬新な取り組みですね。社内だけでなく、関係先への報告も実際に行ったのですか?
なりきり社員が自動車ディーラーを担当する営業部の社員でしたので、ディーラーの方々にも協力してもらいました。
ディーラー内でも働き方改革を進めていたり、子育てと仕事を両立していたりする社員もいるようで、「とても大事な取り組みです」と言っていただきました。
また、仕事のパートナーである保険代理店にもこのプロジェクトの意義をしっかりと説明させていただきました。
ダイバーシティに関する考え方を共有することは関係性を保つ上でも必要なことです。
育児だけでなく介護と仕事を両立する人も
ーーなりきりプロジェクトが誕生するきっかけは何だったのでしょうか。
まず、当社の「両立支援制度」自体は充実していると思っております。
例えば、時短勤務は子どもが小学3年生まで取得することができますし、シフト勤務も様々なパターンがあり、在宅でも勤務できます。
しかし、社員からは「時短勤務にしたいのにできない」や「時短勤務なのに帰れない」といった声もちらほら聞こえていました。
ある男性社員は「本当は育休を1年取りたいが、忙しくて1週間程度になった」と言っていました。
また、実際に育児中の社員からは「みんな忙しいので子どもの熱で早退すると何だか申し訳ない雰囲気になる」や「職場のメンバーにしわ寄せがいかないような働き方はできないか」といった意見もありました。
このプロジェクトが、その辺りの問題点を解消する一つの施策となってほしいと思い、実施しました。
ーー実際に育児中の社員になりきることで、育児と仕事を両立している社員への理解も深まりそうですね。
目的の一つに、当事者の気持ちを理解することがあります。
例えば、これからは育児だけでなく、介護と仕事を両立する社員
様々な場面で「仕事と何か」を両立することが必要になってきますので、そのような将来が待っているという現実を職場全体で考えてほしいなと思いました。
また、そのようなことを考えていくと、職場運営は本当に効率的なのか、生産性があるのか、急に誰かが欠けたらどうするのか、といったところまで考える必要が出てきます。
仕事の「属人化」の解消など、このプロジェクトが当事者の気持ちを理解するだけでなく、このような問題と本気で向き合えるきっかけ作りになったと思います。
なりきり社員や上司の反応は?
ーー本日、早速フィードバックがあったそうですが、なりきりプロジェクトに参加した社員からはどのような声がありましたか。
今回、プロジェクトでなりきり社員になったのは20歳代の社員2人でしたが、「仕事と何かの両立に対する理解の促進に効果的」といった反応がありました。
また、急な退社や休暇取得要請があると仕事がどんどん溜まっていくことを経験し、仕事の属人化をいかになくすか、マニュアル化をどう進めるかなど、自らや職場の業務の見直しを考えるきっかけにもなったそうです。
ただ、営業担当のなりきり社員の場合、ようやく契約締結にこぎつけるといった時に休暇要請があり、結果的には休むことができなかった、というケースがありました。
契約が決まるかどうかの難しい場面ではありましたが、もし本当に子どもがいて発熱していたらどうすればよかったのだろうか、と考えるきっかけになったと思います。
ーーこのような取り組みでキーとなるのは幹部だと思います。なりきりプロジェクトの第2弾があるとしたら、男性幹部などに体験してほしいと思いますか?
そう思います。
なりきり社員になった2人は、「育児中の同僚が日頃どのような気持ちで仕事に臨んでいるのか理解できたので、次はぜひ管理職に体験してほしい」と言っていました。
管理職がなりきり社員になることで、育児や介護と仕事を両立している社員の気持ちを理解し、職場全体の業務量の見直しにもつながると思います。
いわゆる「ワークライフマネジメント」が難しい部署があったとしたら、それを変える一助になるのではないか、とも考えています。
ーーなりきり社員の上司からはフィードバックでどのような反応があったのでしょうか。
なりきり社員の上司からは、「職場全体で両立支援について考えるきっかけになった」「業務全体を見直していかないといけない」などとフィードバックがありました。
なりきり社員が突然早退すると、誰かが仕事を引き継がなければなりませんが、特定の社員だけでなく、職場の全員が早退した社員の仕事をこなせるようにしておかなければならないということに気づいたそうです。
このほか、先ほどから申し上げている通り、本当に効率的な働き方をしているのか、職場運営がきちんとできているのかを見つめ直すきっかけになったという話がありました。
また、実際に子育てと仕事を両立している社員からは、「自分を客観視できた」という反応がありました。
なりきり社員が会議の最中に申し訳なさそうに帰宅している様子を見て、「あ、自分も申し訳なさそうに帰ってるのだな」と気づいたそうです。
そして、「申し訳なさそうに帰るのではなく、感謝の言葉を伝えて帰ったほうが職場の雰囲気もよくなるのだとわかった」と話していました。
社員のエンゲージメントを高める
ーーそれは良い言葉ですね。私も感謝を心がけたいと思います。御社の男性の平均育児休暇取得率や平均日数を教えていただけますか。
それぞれ2022年度末の数字ですが、男性の平均育休取得率は95.8%、女性は97.6%。男性の取得平均日数は10.3日、女性は1年超となっています。
ただ、主体的に子育てに関わる男性社員は増えてきています。
男性の育休取得を推進する取り組みを始めて5年が経ちましたが、今はほとんどの男性社員が「育休を取りたい」と言ってくれます。
5年前は「育休をとりませんか?」と言うと、「なぜですか?」と返されたこともありますが、弊社の2020年度の調査では、男性社員の88.5%が「1か月ほどは育休をとりたい」と回答しています。
このように、間違いなく意識は変わってきています。
最近は、採用面接で「男性でも育休を取れますか?」と質問を受けることも多いですし、働き方やウェルビーイングという観点がものすごく大事な指標になっています。
社員数が多いので「草の根運動」的で大変な部分もありますが、特に男性育休に対しては管理職の意識改革をこれからも重点的にやっていきます。
ーーなりきりプロジェクトは社員のウェルビーイング向上、働き方改革にもつながる話ですが、この二つを達成するために何が必要だと思われましたか?
やはり管理職の理解が必要です。
働き方改革に熱心な管理職がいる部署では良い風土が生まれ、社員の心も満たされたものになっています。
また、弊社では近年、エンゲージメントの向上に力を入れています。
ウェルビーイングの定義は幅広くて一言で表すのは難しいですが、ワークライフバランスを重視している人もいれば、バリバリ仕事をしたいという人もいます。
優先順位や価値観は人それぞれです。会社としては社員のエンゲージメントを高めるということをキーワードに、多様な価値観を受け入れてウェルビーイング向上に努めていこうと思います。
なりきりプロジェクトについては、管理職に経験してほしいという声がフィードバックで聞かれましたし、人事部の社員としては継続していきたいと思っております。
育児や介護など、これから仕事と何かを両立している社員は確実に増えていきますので、会社としてそのような将来を見据え、改善できるところは改善していく必要性を認識しています。
Source: HuffPost