2023
10.30

その事業、イケてる?社会性と経済性を繋ぐ「ソーシャルM&A」で描く未来

国際ニュースまとめ

企業の合併・買収を意味する「M&A」。

最近では、LINEとヤフーの統合のニュースも記憶に新しい。

「お金」や「ビジネス」のイメージが強いM&Aだが、そこにソーシャルという物差しを加えて挑む事業がある。

「美しさと正しさで金儲けができる社会にしたい。だってかっこいいじゃないですか」

そう語るのは、社会性や文化を大切にする企業の経済価値をM&Aを通して高める仲介事業 GOZEN(ゴゼン)の布田尚大さん。

今回、オルタナティヴな資本主義のあり方を創造するGOZENの哲学や、ソーシャルM&Aについて聞いた。ドイツの思想家やHIPHOPの価値観を踏襲した哲学とは?

布田尚大布田尚大

M&Aだからこそ加速できる「ソーシャルインパクト」

── 今日はよろしくお願いします。早速ですが、GOZENが取り組んでいるソーシャルM&Aは一般的なM&Aと何が異なるのでしょうか?

GOZENの行っているソーシャルM&Aの大きな特徴のひとつに「1ディール・1ドネーション」があります。1つのディールが決まる度に、合併や買収をされた企業の事業内容に関連する活動をしている団体に寄付をする仕組みです。

M&Aは「事業成長のためにリソースを買ってくる」というイメージも強いかと思いますが、その企業の利益だけではなく、そのディールが成立することで社会にも良いインパクトを起こせる仕組みを作りたいと思ったんです。同じ社会課題の解決に取り組んでいても、ビジネスから登る人もいれば非営利から登る人もいるので、そこをつなぐ仕組みが必要です。

この取り組みだけで大きくソーシャルインパクトを加速することはできないかもしれませんが、あえて「ソーシャルM&A」という理念を掲げることも大切にしています。ソーシャルグッドを志している、より多くの起業家に「M&Aってソーシャルインパクトを加速する手段なんだよ」と示していきたいんです。

実際に、今までいろんな企業と話してきた中でも、M&Aについて「大きな会社同士がやるものだと思ってた」「ゴリゴリ系のビジネスパーソンだけがやっていると思っていた」という声がありました。そういった人たちにも「GOZENが考えるM&Aなら」と興味を持っていただけることもあり、企業の未来における選択肢を増やすことに意義を感じています。

── 合併元の企業が持ってる哲学も大切にしつつ、次のステップに持っていく。

そうです。すごく社会的に良いことを小さな規模でやられている方もいますし、それも素敵なことだと思います。しかし、「ソーシャルインパクト」という視点で考えるのであれば、ある程度の規模や企業が持つブランドとしてのパワーも重要視すべきかなと考えています。GOZENがスモールビジネスのM&Aに積極的に取り組む理由も、そこにあります。

例えば、あるZ世代の起業家の方が、京丹後市で栽培された野菜を使った乾燥野菜の事業「OYAOYA」を立ち上げたのですが、ある程度の仕組みが整った15ヶ月でM&Aを選ばれました。理由を聞いてみると「小さくやっていく選択肢もあるけれど、僕は京丹後の農家さんに幸せになってほしいので、流通規模を考えたときに小商いではどうしようもないと思ったんです」とのことでした。

地域貢献というと、都会でのキャリアを捨てて「地方創生の小商い」という二項対立構造が続いていたように思いますが、そのような新しい視点を持った若い世代の起業家からは、新しいビジネスの風を感じますね。

美しさと正しさでメイクマネー。背景にはドイツ思想とHIPHOP?

GOZENのウェブサイトでは、アーティスティックな世界観が前面に出ているGOZENのウェブサイトでは、アーティスティックな世界観が前面に出ている

── GOZENを始めた背景について教えてください。

GOZENの誕生は、私自身の経験に基づいています。私は社会学の修士号を取得後に入社した会社と並行しながら「INHEELS(インヒールズ)」というエシカルファッションのブランドにボランティアで携わり、その後は転職して同ブランドのCOOになりました。

しかし、2019年にブランドはクローズしてしまったんです。ファンのお客様もついていて、自分たちでも「いいものが作れている」という実感はあったのですが、いろいろなハードシングスがありビジネスの継続が難しくなってしまいました。

INHEELSの宣材写真INHEELSの宣材写真

「望まれているけどクローズせざるを得なかった」という経験が悔しくて、「もっとできることなかったのか?」とモヤモヤとしている中で、下着ブランド feast のCOOをやらせていただくことになりました。当時、同ブランドの社長をされていた方が、新たな事業に取り組まれるということで「ユニークな事業だけど、後継者がいないからクローズするしかないかな」と考えていたところを、ご縁があって経営を引き継いだんです。

下着事業に関わったことは全くありませんでしたが、INHEELSでの悔しさもあり、この事業へのコミットを決めました。

── 悔しさとリベンジの実体験から、社会性や文化を大切にする事業の経済価値を高めるM&Aに着目した。Gozenの掲げる哲学に「美しさと正しさでメイクマネー」がありますね。

「メイクマネー」に関しては、実は90年代のヒップホップに着想を得ています。私はヒップホップが大好きで、歌詞も「かっこいいことをしながら、社会的に成功してお金稼いでいこうぜ」みたいな内容が多いんです。私はアーティストではないですが、カルチャーを守りたい、繋ぎたいと願うビジネスパーソンである以上、カルチャーが持つ「イケてる」「かっこいい」側面も大切にしたいと思っています。

そんな思いを込めた言葉が「美しさ」や「正しさ」です。ひたすらお金ではなく、SDGsやエシカル消費のことも考えているって、すごくかっこいいじゃないですか。

そしてもう一つ大切にしているのが、ドイツの思想家・アーティストであるヨーゼフ・ボイスが提唱した「社会彫刻」という概念です。端的に言うと「美術館でよく見るような彫刻だけに限らず、社会を変革して新たに創造していく活動も彫刻的だよね」という価値観で、ソーシャルM&Aもその一つだと思っています。

「社会的・文化的活動にお金がついてくる社会」を目指して

GOZENGOZEN

── 社会性と経済性の両方を満たすために、企業や個人に大切なことはなんでしょうか。

語弊を恐れずに言うなら、企業や個人に「かっこいいことをすると儲かるよ」と伝えたいですね。

私はスモールビジネスやスタートアップの方と関わることが多いので、そこで「かっこいいことやるとしっかりお金も儲かるよ」という選択肢や事例を示して、新たな仕組みを普及させることを大切にしています。バランスを考えて慎重に進めるべきポイントはありますが、逆に「お金になるから、イケてる事業を作ろう」というパターンもありだと思います。

商社や外資系のコンサルティングファームを選べば大きなお金を稼げるはずの人が、ソーシャルと経済を天秤にかけなくてはいけない、後者を選ぶことで経済的には損をしている現実が依然としてあります。自分で起こしたソーシャルビジネスのM&Aによるキャピタルゲインを得る、という選択肢がありうることを実証して、変革していきたいですね。

GOZENでは、1円でも高く買ってくれる企業をひたすら探すのではなく、「M&Aに興味あるかわからないけど、この企業とこの企業が一緒に事業をしたらすごくソーシャルインパクトが加速するかも」というところには積極的に提案することもあります。「GOZENがなかったらこのマッチングって成立しなかったな」というM&Aが成立したときは、それこそ社会彫刻を作っているみたいで鮮明な意義を感じます。

また、GOZENは事業の社会的・文化的価値を大切にしていますが、それによって事業性がなくても許されるとは全く思っていません。ビジネスとして成立するか、しっかり時代性を汲むことも大切なんです。目的は同じでも、経済性も守りつつソーシャルインパクトを与えるには、その時代に刺さるアウトプットをしなくてはいけません。

私がCOOをしていたINHEELSは「六本木にも踊りにいけるエシカルファッション」というコンセプトを掲げていましたが、当時のエシカルファッションといえば「森ガール」のような雰囲気のビジュアルやトーンが先行していました。今でこそエシカルのイメージも多様化していますが、当時のINHEELSの試みはタイミング的に早すぎたのかもしれません。

布田尚大さん布田尚大さん

── これから、社会性も重視したソーシャルM&Aという選択肢が、より多くの人に広まって欲しいですね。

はい。繰り返しになりますが、M&Aは一世一代の大事である必要はありません。「3年やってみたら形になって、それを1500万で買ってくれる人がいたよ」みたいな選び方もできるんです。1500万円は一生食べてけるお金ではないかもしれませんが、海外の大学院に行ったり、地方移住のリノベーション費用に当てたり、次のステップに進む資金としては十分ですよね。

また、22歳で起業して3年目で3000万円でM&Aして、買収先で2年働き、また起業して同じことを繰り返すと、30代前半で5000万円弱の金融資産を得ることができます。これは日本人の資産分類だと準富裕層というカテゴリーにあたり、上位10%に入ります。社会的・文化的なことにもっとお金が回るべき、といったスローガンではなく、ソーシャルM&Aを通して具体的なライフキャリアのあり方を発信していきたいです。

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Source: HuffPost