09.12
神宮外苑再開発の「スクラップ&ビルド」は時代遅れ。専門家有志が小池都知事に見直しを求める
神宮外苑再開発とは?>>【5分でわかる】神宮外苑の再開発、何が問題になっているの?知っておきたい5つのこと
神宮外苑再開発をめぐり、420名の建築や都市計画、造園、環境や経済の専門家からなる有志団体が9月11日、施行認可の撤回を求める要請書を東京都の小池百合子都知事宛に再提出した。
要請書では、環境影響評価審議会の柳憲一郎会長に対して、環境アセスメントの再審査も求めている。
専門家有志は、3月8日にも同様の要請書を都知事、都議会議長、環境影響評価審議会会長に提出している。
しかし、9月11日に東京都庁で記者会見した有志代表で元日本大学教授の糸長浩司氏によると、これにまでに要請書に対する回答はない。
糸長氏らは要請書を再提出して、専門家や市民の意見に耳を傾けるよう改めて小池都知事に求めた。
専門家有志が指摘する9つの問題点
専門家有志が要請書で指摘しているのは、再開発を巡る次の9つの問題点だ。
・緑地の一部が破壊される
・風致地区制度をないがしろにした計画である
・歴史的価値のある建築物が失われる
・都市防災拠点が縮小する
・公園まちづくり制度を誤用している
・都市公園区域に超高層ビルが建設される
・環境影響評価の進め方に問題がある
・膨大なCO2が排出される
このうち、環境影響評価の進め方については、日本イコモス国内委員会が2023年1月に事業者の提供した環境影響評価書には「誤りや虚偽がある」と指摘し、再審査を求めていた。
これに対し、審議会で事業者が説明をする場が設けられたが、問題を指摘した日本イコモスの出席は認められず、専門家から「事業者の説明や審議会の進め方に問題がある」などの声があがっていた。
糸長氏は「審議会は事業者が出した評価書を止める、もしくは再度提出させることができたにもかかわらずしてこなかった。都知事も別の専門家を入れて事業者とディスカッションする場を設けることができるのにしなかった。その結果、疑義を提示していたイコモスの同席もなく事業者の一方的な説明になってしまった」と記者会見で批判した。
「スクラップ&ビルド型」の問題点
糸長氏は、CO2排出の観点から、今回の再開発が「スクラップ&ビルド型」であることが問題だとも語った。
再開発では、神宮球場と秩父宮ラグビー場の場所を入れ替えて建て替えるほか、伊藤忠商事本社ビルも、今の2倍となる190メートルの高層ビルに建て替える。
しかしスクラップ&ビルドだと、建物を建てる時だけではなく、壊す時にもCO2が排出される。
糸長氏は、その解体時のCO2排出量は環境影響評価書に書かれていないと述べる。
「こういったやり方は時代遅れです。東京都は脱炭素に取り組むと言っており、再開発にかかるすべてのCO2排出量を計算しなければいけない。しかも再開発で緑の量も減るので、CO2吸収量も減ることになります」
「再開発では、CO2排出削減に非常に逆行するようなことが行われているのです。都知事が今の段階で切り替えることには、歴史的な意味があるのではないかと思います」
新建築家技術者集団会員の若山徹氏も「本当に神宮外苑に超高層ビルはいるのか」と疑問を投げかけた。
「ここは本来、建物の高さを制限し、自然環境を守るために風致地区(良好な自然的景観)に指定された地域です。そこで再開発をやるということが、根本的におかしい」
「その歴史的な経緯を踏まえれば、施設は改修リニューアルを中心に考えた方がいいのではないかと思います」
千葉商科大学学長の原科幸彦氏は「公共空間を、企業の利益だけに使うという考えが、そもそも間違っている。みんなが100年かかって残した土地を使わせるというのは、経営者の倫理にもとる」 と述べた。
専門家有志が3月8日に要請書を提出した後も、1年以上にわたり見直しを求める署名活動やデモが続いている。
坂本龍一さんや村上春樹さんら著名人も反対を表明し、サザンオールスターズの桑田佳祐さんは、9月18日リリースの新曲「Relay〜杜の詩(リレー〜モリノウタ)」が、神宮外苑再開発をテーマにした曲だとラジオ番組で明かした。
さらに、世界的な学会「国際影響評価学会(IAIA)」日本支部が6月に停止を勧告したほか、ユネスコの諮問機関である国際イコモスも9月に「遺産危機警告(ヘリテージアラート)」を出した。
糸長氏は「市民や専門家の熱い思いがうねっている中で、都知事は相変わらず業者任せで、自分たちのやっていることは間違いないという主張をしており、討論の場を一切開こうとしない。(討論の)場を広く設けることが、政治家、事業の最終決定責任者としての役割ではないのか」と述べた。
事業者は、再開発に対する市民からの質問に対しプロジェクトサイトにQ&Aのページを設けて、回答している。
糸長氏は、東京都や事業者は疑問にきちんと回答しようという姿勢があるならば、こういったページだけではなく、専門家や市民も交えたディスカッションの場を設定してほしいと求めた。
Source: HuffPost