09.11
2023年北朝鮮 誰がなぜ飢えているのか? ~セン博士の「飢饉分析」から考える~ 石丸次郎
■稼ぐ機会と権利を政府が剥奪
金正恩政権はコロナ防疫を理由に国内の移動を厳しく制限した。同時に「非社会主義的行為をなくす」として、個人の経済活動を強力に取り締まった。個人食堂でさえ営むのは禁止。パンや餅などの食品、衣料品の縫製、リアカーを使った運搬などの小商いに人を雇うことが不可能になった。
成人男子は配置された職場への出勤を強要されて商行為や賃仕事をすることが困難になった。こうして都市住民は現金収入が激減した。1990年代に食糧配給制度がほぼ破綻した後、国民の大半は自力で経済活動をして現金を得て、市場で食糧を購入して暮らしてきた。その機会が政府によって奪われたのである。
「お金が底をついたら、親戚や知人からお金やコメを借りる。次は家財を売りに出す。借金取りが押しかけて、鍋釜まで取り上げていく騒ぎが近所でもある。万策尽きたら、物乞いをするか、犯罪に走るか、女性なら売春。最後には家を売るのだ」
咸鏡北道に住む協力者は、このように説明する。
状況がさらに悪化したのは今年の春からだ。協力者6人全員が、「4~5月の間に居住する地区で餓死者が出た。年寄りや幼児が市場や道端で物乞いをしている」と伝えてきた。
■メディアは北朝鮮の内情を取材しよう
7月14日に世界食糧計画(WFP)など国連の5機構は、20~22年の北朝鮮の栄養不足人口は1180万で人口比44.5%に及ぶだろうと発表した。北朝鮮に人道危機が発生しているのは間違いない。そんな隣人の窮状がもっと報じられるべきだが、多くのメディアは北朝鮮の死角に取材の光を当てられてない。
センは著書でこう述べている。
「厳しい飢餓が発生し続けていることは、民主的政治が制度としても実践としても欠如していることと密接に関連している」
(2023年8月23日付の東京新聞のコラムに加筆しました)
Source: アジアプレス・ネットワーク
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