09.06
タイ人デザイナーが楽天ファッションウィーク3期連続登場!ラロパイブン・プワデト氏インタビュー
東京のファッションの祭典と言えば東コレこと『東京コレクション』。2020年春夏シーズンから楽天がスポンサーになったため、名称が『Rakuten Fashion Week TOKYO』となっていてびっくり。それもそのはず。コロナ禍には中止になったこともあり、毎回チェックしているというおしゃれに敏感な方以外は、そこまでまだ馴染みのない名称。『楽天ファッションアプリ』のショーだと思っている方も人も意外に多いのだそう。
そういえば、球場や会館名も気付いたら「えっ?」という名称に変わっていることがよくある。時代は変わるものだ…。
そんな感慨に浸っていたところ、全50ブランドが参加するという『Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/S』の最終日に、日本で学び、日本で活躍の場を広げているタイ人デザイナー、ラロパイブン・プワデト氏(Larprojpaiboon Phoovadej)が3シーズン連続の登場をするという情報が。
今回の『Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 S/S』は、渋谷ヒカリエや表参道ヒルズを中心に、2023年8月28日(月)~9月2日(土)に開催。テーマに掲げられた「OPEN,FASHION WEEK」は、長く続いたコロナ禍の行動制限がなくなり、人々が集い、感動を共感できるようになったからこそ生まれたもののようにも感じられる。
テーマ通り、より多くの人にファッションを楽しんでもらうために、一般の方が参加できるイベントやコンテンツを多数展開。ラロパイブン・プワデト氏のショーも限られた枚数のチケットだったものの、一般の方も参加しショーを楽しんでいた。
しかも今回はタイ王国大使館との共催。一体どんなショーになるのか?そしてタイ人デザイナー、ラロパイブン・プワデト氏はどんな方なのか…タイランドハイパーリンクスは興味深々。
あわよくばお話も伺ってしまおうということで、渋谷ヒカリエに駆け付けた!
ドアを開けたらそこはタイのコンビニエンスストア
コレクションというとランウェイをイメージするものの、会場に入ってびっくり。そこにはタイでお馴染みのママー(インスタントラーメン)やシンハービール、タイのお菓子など大量の食品が段ボールを積み上げられた山が一つ。
意外過ぎるセットにオーディエンスもざわめいていた。
今季のロパイブン・プワデト氏のブランド「アブランクページ(ABLANKPAGE)」のテーマは『expired(賞味期限切れ)』。期限切れとなった大量の食品を積み上げることで、食料廃棄への疑問を表現。彼の故郷であるタイのコンビニエンスストアをイメージしたのだそう。
日本で学び、日本で活躍するプワデト氏ですが、タイ好きにはたまらない母国の色を出してくるところはさすが。
モデルの動きも「SDGs」?人間も持続可能
会場づくりだけではなく、モデルの動きもかなり特徴的だった。
ひとり一人、モデルが登場してくるのは他のコレクションと同じであるものの、中央に立つ時間がほんの一瞬。立ち止まるか立ち止まらないか程度で移動してしまう。これには詰めかけたカメラマンが慌てる一幕も。移動した後は食材の山を囲むように、並んでいくのだが、その後も一定時間が経過すると場所を移動する。モデルがステージにいる時間は他のショーよりはるかに長いものの、中央に立っている時間だけ他のランウェイと比較すると短すぎるのだ。
最初は「??」と思ったものの、途中で「なるほど!」と納得。
今季のテーマである賞味期限切れに相反するものこそSDGs(持続可能な開発目標)。モデルは通常、ランウェイを歩き、メインのステージで決めポーズを取り、戻っていくものだが、このショーは違う。1ステージでモデルとアイテムが注目を集める「賞味期限」は通常は一瞬。でもこのショーでは中央に立っている時間より、横のスペースに立っている時間がかなり長く、鋭い眼光でその存在をアピールしてくる。モデル(人間)やアイテムにも「持続可能」を匂わせる演出に、衝撃を受けるほどの創造性を感じてしまった。
実用性の高いアイテムも!今すぐ着たくなるコートもちらほら
「アブランクページ(ABLANKPAGE)」の過去2回のショーはタイ文字やタイバーツを使ったアイテムや、カラフルな異素材の組み合わせが目立ったものの、今回のショーはこの秋冬に町で着たいと思わせる実用性のあるアイテムも。
個人的な趣味ですが、このグレーのコートは、思わず「ほしい!」と呟いてしまった。実用性はもちろんだが、大きな襟が特徴的。年齢性別問わないデザインが秀逸だ。
とはいえ、異素材の組み合わせによるカラフルなアイテムも健在。世界的ジーンズブランド『EDWIN』とのコラボレーションは恒例となりつつある。
アイテムは「賞味期限切れ」に対する問題定義
今回特に目を引いたのはテーマである「賞味期限切れ」への問題定義。尾州(愛知県)最大のテキスタイルメーカー「西川毛織」とのコラボレーションで、規格外品を加工しアイテムを製作。まさにこれぞSDGsと言える試みが目の前で繰り広げられていく。
また、賞味期限切れといえば、食材。日本のスーパーでお馴染みの「半額」シールモチーフがプリントされたテキスタイルを使ったアイテムもあり、これが想像以上にポップでキュート。このシールが、ランウェイに並ぶアイテムに使われるなんて…。目から鱗のショーとなった。
ラロパイブン・プワデト氏&駐日タイ王国大使にインタビュー
ショーの終わりに少しだけ時間がいただけたので、プワデト氏と、そして奇しくも同じ日本で学び、今があるというシントン・ラーピセートパン駐日タイ王国大使にお話を伺うことができた。
SDGsをシンプルに伝えられる機会に
ーー今季、賞味期限切れというテーマを選んだ理由は何でしょうか?
プワデト氏:日本のスーパーで貼られる「半額シール」が個人的に大好きなんですよ。派手だし明るくてとても目立つなあって思っていて。
ーータイにはないものですか?
プワデト氏:タイでは「◎バーツ」と表示したシールを貼って「ディスカウント」コーナー
に置くことはしますけど、こんなデザインのものはありません。このプリントをテキスタイルに取り入れることで、ポップで楽しい雰囲気も出せたと思います。
今回のテーマは「賞味期限切れ」だけの意味ではなく、今の若い人たちが困っている状況も表現したいと思いました。例えば長時間労働で、働く価値、1人の人間の価値が低下している社会の中で、少しでも明るい気持ちになってほしいなと、楽しさを加えたくて。
ーー「賞味期限切れ」から「SDGs(持続可能な開発目標)」を連想させる場所としてコンビニエンスストアをイメージした会場づくりがユニークでしたね。
プワデト氏:「SDGs」というと、どうしても難しく考える人も多いので、日常で感じられるシンプルなものが良いなと。それだったら一番身近で、誰もが立ち寄れる場所がコンビニエンスストアだと思いました。それが今回のショーのポイントになっています。
インスピレーションを受けた場所は原宿
ーータイは極彩色の寺院や濃くて大きな花の色など、訪れると華やかでカラフルな国だな、と思うのですが、タイと比較すると日本の色彩は薄いと感じたことはありませんか?
プワデト氏:確かにそれはありますね。でも日本のファッションセンスはトップクラスだと思います。僕の中で日本のファッションは、やっぱり原宿。カラフルで特徴的で毎年新しい発見があって。
ーー原宿は日本の中でも特別な世界ですよね。
プワデト氏:そうです。日本の色、日本の文化とはある種違う意味で、原宿はバンコクのキッチュでカラフルな世界にも似通った印象があると思います。原宿とタイの色遣いは少し似ているところがあります。
ーー日本で3年間デザインの勉強をして、学校は文化ファッション大学院大学ですよね。新宿にある学校ですが、新宿はプワデトさんにとってどんな町ですか?
プワデト氏:にぎやかな街で便利でしたね。原宿の方が好きですが、僕にとっては完全にホームタウンという印象です。
デザイナーになる夢をあきらめないで
ーーいつ頃からデザイナーになろうと思っていたんですか?
プワデト氏:実は割と最近なんですよ(笑)。高校生の時に「デザイナーになりたいな」って思いはじめたんですけど、丁度、文部科学省の奨学金を受ける制度があったので、学ばせていただきました。
ーータイのデザイナーさんが日本に進出する足掛かりになればいいですね。
プワデト氏:タイで活躍しているデザイナーはたくさんいますけど、まだ日本で活躍しているタイ人デザイナーは、とても少ないです。寂しい気持ちもあるので、僕がもう少し頑張ってコラボレーションできるような立場になれれば。頑張っている人の目標になれるデザイナーになれたらいいなと思います。
ーータイ人だけではなくすべてのデザイナーを目指す人にひと言お願いします。
プワデト氏:とにかく頑張ること。そして自分の夢を忘れずに継続していくことが良いと思います!
なぜ日本で日本で学ぶことを選んだのか?プワデト氏と駐日タイ王国大使に聞く
今回はタイ王国大使館が共催してのステージとなり、シントン・ラーピセートパン駐日タイ王国大使も来場していた。シントン・ラーピセートパン駐日タイ王国大使は、日本の高校・大学で教育が受けられる奨学金制度を受け、1983年東京学芸大学附属高等学校卒業。1987年横浜国立大学経済学部卒業。1989年横浜国立大学大学院修士課程修了と、長い間日本で学んでいる。
奇しくも2人とも日本の文部科学省の奨学金で日本で学び、タイを代表する立場となった。
タイランドハイパーリンクスとしては、違う世界でタイを代表する立場になったタイ人2人が、学ぶ場を日本に求めた理由も聞いておきたいところ。
ーー今回はタイ王国大使館が共催するショーとなりました。タイ王国大使館は日本で行われる数多くのイベントを後援されていますね。
シントン大使:そうですね。これはタイ政府の政策の一つで、タイの優秀な人たちをタイのレベルだけでなくアジア、さらには世界的レベルまで後押ししていくことが目的です。
ーーもっとタイから日本に進出するデザイナーさんが増えるといいですね。
シントン大使:もっとたくさんのタイのデザイナーが日本で活躍できたら、今日みたいに彼のソロのショーではなく、タイ・デザイナーウィークみたいなことができれば、タイの特色あるショーができて楽しいのではないでしょうか。
ーーお二人とも偶然にも日本で学ぶことを選び、業界は違ってもタイを代表する立場になっていると思いますが、他国ではなく日本で学ぼうと思った理由はなんですか?
シントン大使:僕は昭和の時代の留学生だったので、彼とはかなり歳が離れていますから、また理由や状況はかなり違うと思いますが(笑)、タイと日本の関係は長くて深くて、当時から便利で優秀な製品は日本の物ばかりでした。
「どうしても日本はこんなにも様々なものを作れるのだろう?」とずっと日本に憧れていたんですね。日本は素晴らしい…そう思っていたタイミングで、日本で学ぶ奨学金制度があったので、その試験を受けて合格できました。
それで日本で学ぶ機会を得られたんですよね。
プワデト氏:日本はアジアの中ではデザインのセンスがとても高いので、タイに持ち帰って、タイのファションのレベルを世界レベルに引き上げられたらいいなあと思って、日本で学ばせていただきました。丁度、タイ・日本の交流の一環である、文部科学省の奨学金で3年間、日本でデザインについて学ばせていただいた感じです。
取材を終えて
SDGsを分かりやすく「賞味期限切れ」をテーマにして表現。会場にタイのコンビニを再現するという斬新な感覚と、モデルが着用するアイテムに「半額」シールをプリントし、厳しい世界で必死で生きる人々の価値の「半額」をも訴えかけたプワデト氏。服のコレクションのテーマをトータルで膨らませて考えられる才能に、驚嘆の連続のショーとなった。
時間が許せばまた改めてじっくりとお話を聞いてみたい。
また、コロナ禍の制限が少しずつ緩和されていった2022年あたりから、エンターテイメント制の強いタイのイベントが激増したことも、タイ好きの皆さんならチェック済みかもしれない。当初は『タイフェスティバル』を通し、タイの文化・芸能と日本の文化・芸能の交流に力を入れてきたタイ王国大使館が、後援するイベント数を増やし、日本にタイの魅力を拡散している。
大使とプワデト氏のお話にもあったように、タイと日本の交流は長く、タイは親日国としても知られている。そして日本にもタイが好きな人は多く、親泰国と言える。まさに相思相愛と言えるかもしれない。
アートやファッションの面でも、より多くのタイ人の皆さんの日本での活躍を大いに期待したい。
取材・文:吉田彩緒莉
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