08.30
絶滅危惧種のカンムリワシに危機?石垣島のゴルフリゾート開発に環境保護団体らが「待った」。今、沖縄で起こっていること
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世界で気候変動に並んで重大な危機を迎えていると認識され始めた生物多様性。
2022年に開かれた生物多様性条約について話し合う国連会議「COP15」では、2030年までの世界目標が採択され、「生物多様性の損失を止め反転させ回復軌道に乗せるための緊急な行動をとる」と、これまでの取り組みからさらに踏み込んだ「ネイチャーポジティブ」を目指すことが明記された。
政府や多くの企業がネイチャーポジティブに向かう一方で、東京の神宮外苑再開発をはじめ、自然環境と経済性のトレードオフになる可能性がある土地開発も散見される。
沖縄の石垣島は、ラムサール条約の登録湿地「名蔵アンパル」を始め、貴重な生物や自然が残っている。絶滅の危機に瀕しているカンムリワシも生息する場所で今、大規模なゴルフ場を含むリゾート開発が進められている。ゴルフ場がない石垣島で観光業を盛り上げたいという狙いだ。
しかし、環境団体や鳥類、魚類、甲殻類、軟体動物などの専門家らがこの「石垣リゾート&コミュニティ計画」に対し、貴重な自然や生物多様性が大きく失われかねないと警鐘を鳴らしている。
開発予定の場所はどんなところ?
「石垣リゾート&コミュニティ計画」では、約127ヘクタールの大規模なリゾート開発を予定しており、石垣島で唯一のロングコースのゴルフ場や宿泊施設が建設されようとしている。
開発予定地や周辺には西表石垣国立公園や、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)」の登録湿地である名蔵アンパルや名蔵湾、国指定鳥獣保護区、沖縄県の「自然環境の保全に関する指針」でランクⅡ(自然環境の保護・保全を図る区域)に設定された地域などがある。
また、特別天然記念物で絶滅が危惧されているカンムリワシの生息が確認され、繁殖場となっている可能性もあるなど、「自然環境の保全上重要な地域」が含まれている。
環境影響評価、沖縄県知事の意見は?
貴重な自然環境や生物が生息する地域を開発するにあたって、どのような影響が出るのか。「石垣リゾート&コミュニティ計画」を進めるユニマットプレシャス社は事前に調査、予測、評価をする「環境影響評価」の手続きを行った。
2021年4月30日に同社から提出された「環境影響評価書」に対し、沖縄県知事は2021年6月14日に以下のような意見を述べている。
「提出された評価書は、知事意見等に対する事業者の見解が十分に示されていないものや適切な環境影響評価が実施されていないものがあるなど、十分に対応されているとは言えない」
沖縄県は知事意見で、水環境や陸域・海域生物などへの影響の懸念など、17項目70件の指摘をし、再調査や対応を要請した。しかし、環境影響評価は規制手段ではなく、あくまで事業者の自主的な環境配慮を誘導する制度。最終的にどのように対応するかは事業者の判断に委ねられる。
同社はこの知事意見に対して見解を示し、環境影響評価の手続き自体は終了したものの、結果的に知事の意見に対して対応が十分ではない部分もあると沖縄県環境政策課の担当者は言う。
「主に名蔵アンパルと名蔵湾、カンムリワシ、地下水への対応は十分ではないと言えます。今後は開発を始めるために必要な農地法に基づく『農地転用許可』と都市計画法に基づく『開発許可』の審査の中で、環境影響評価が参照されることもあると思います。そうした手続きを経て、最終的に知事の判断が出ることになります」
専門家や環境団体から懸念の声
知事意見を経て同社が2021年10月に提出した「最終評価書」に対し、民間からも懸念の声が上がっている。
2023年6月29日に環境保護団体のWWFジャパン、日本野鳥の会、日本魚類学会、日本甲殻類学会、日本サンゴ礁学会、軟体動物多様性学会、石垣市のアンパルの自然を守る会が会見を開き、調査や対応が不十分な点を指摘した。
特に懸念が強い点は、沖縄県知事が指摘していることにも重なる以下の3つだ。
・名蔵アンパル・名蔵湾への「影響は軽微」と断じて事後調査を行なわないこと
・カンムリワシの生息について建設用地の一部でしか調査しておらず、アセス終了後に用地内での営巣(繁殖場所)という重要な事実が確認されたにも関わらず、対策が不十分であること
・1日に700トンという大量の地下水汲み上げやゴルフ場で継続的に使用される農薬の影響について十分調査していないこと
日本野鳥の会の葉山政治常務理事は「カンムリワシの営巣や餌場になっている重要な生息地である森林とその林縁部は、開発を避けるべき場所だ。事業者はもし営巣が確認された場合には部分的な工事の中止をするとしているが、繁殖の初期に工事が行われていれば、営巣に至る可能性そのものを低下させてしまうことになり対応が不十分」と指摘した。
アンパルの自然を守る会の島村賢正共同代表は「建設予定地はラムサール条約湿地である名蔵アンパルの水源地。大量の地下水を汲み上げれば湧水の供給に影響が出る可能性が高いにも関わらずその影響を調査していない」とコメント。
「地元には、アンパルの甲殻類が約15種類登場する古謡が伝わっています。アンパルのエビ・カニ類が失われれば、こうした伝統文化を絶やすことにもなる」(島村さん)
また、軟体動物多様性学会の石田惣会長は「重要種に明らかな種の同定のミスがある」と指摘。「評価書に掲載されている重要種の『ハナグモリ』の写真は、別種のマスオガイであると考えられる」など、調査の不十分さを指摘した。
WWFジャパンの小田倫子さんは、「環境影響評価で見えてきた課題に対応しないまま開発のために必要な許可が降りてしまえば、環境影響評価の制度自体が形骸化してしまうことになります。事業者が調査・予測・評価を再実施すること、今後の許可審査の中で課題に対して十分な対応を求めたい」と訴えた。
事業者の見解と今後の動きは?
「農地転用許可」を行う沖縄県の土木建築課の担当者は、「農地法に基づく審査の中で、地下水や農薬など周辺の農地への影響を審査する必要があります。その中で環境影響評価に対する知事意見を踏まえた指摘をすることもある」としている。
「開発許可」を行う沖縄県の土木建築部の担当者は、「審査中の案件については答えられません。情報の公開は、開発後の完了検査が終わった時点になります」と回答した。
ユニマットプレシャス社の担当者は、「ゴルフコースがない石垣島にゴルフコースを作り、観光業を盛り上げたいという思い。法律に基づいて対応をしているため、問題ないと認識している」と回答した。
環境影響評価制度自体にも課題
環境アセスメント研究の第一人者である、「国際影響評価学会(IAIA)」の元会長で今も日本支部代表を務める千葉商科大学の原科幸彦学長は、「日本の環境影響評価は司法的救済制度がないことや、情報公開も住民の参加も不十分など課題が多い」と指摘する。
「虚偽の報告などをした場合、知事は『勧告』することはできますが罰則規定はないに等しく、最終的にどうするかは事業者の良心に委ねられているのが現状です。例えば、アメリカではアセス手続きの瑕疵があれば司法的に争うことができ、虚偽の報告や杜撰な調査・対応をすれば裁判に持ち込めるのです」
日本が環境影響評価の法制化の準備を始めたのは1972年。その後、法制化に一度失敗し、ようやく法制化したのは四半世紀後の1997年。実際に施行されたのは1999年と、OECD加盟国で最も遅かった。そしてその遅れはいまだに取り戻せていないと原科さんは言う。
「沖縄県の今回の環境影響評価では、知事意見でしっかりと問題点が指摘されています。開発に必要な許認可をする沖縄県知事が最終的にどのような判断を下すかにかかっています」
Source: HuffPost