2021
07.21

インドネシア政府、コロナ規制強化策を5日間延長へ 抜本的対策なく国民に不信感

国際ニュースまとめ

<日本同様に大規模なロックダウンに及び腰でダラダラと規制を続ける政府に国民はうんざり……> 新型コロナウイルスの感染が拡大し続けている東南アジアの大国インドネシアで、7月3日から20日まで首都ジャカルタのあるジャワ島と世界的観光地バリ島を抱えるバリ州に出されていた感染拡大防止策「緊急大衆活動制限(PPKM Darurat)」が同月25日まで延長されることになった。 20日にジョコ・ウィドド大統領が明らかにしたもので、「緊急大衆活動制限」というそれ以前の規制に比べるとより一段と厳しい感染拡大防止策の施行をさらに継続することを自らテレビ演説を通じて国民に伝えた。一方で、これは各種施策が感染拡大を止められない現状を政府が深刻に受け止めている表れともいえる。 しかしタイのバンコクやベトナムのホーチミン市などで施行された「都市封鎖(ロックダウン)」や「夜間外出禁止令」などのさらに厳格な規制に対しては依然として「経済活動への影響が深刻」との立場から踏み切れない状態が続いている。 伝統市場やモスクでは人流下がらず このように「緊急大衆活動制限」が続くジャカルタでは中心部のタナアバンなどの伝統的な市場、商店街、飲食店街では規制にも関わらず、マスク非着用者も含めた多くの人出で賑わっている状況が続いている。 今回の「緊急大衆活動制限」は基幹産業を除く一般民間企業の工場やオフィスのテレワーク率を100%とし、基幹産業などに通勤する人には「就業登録証明(STRP)」の携帯、提示を義務化。宗教施設の閉鎖、学校の授業すべてのオンライン化、主要道路の車両・バイク乗り入れ制限、ショッピングモールや飲食店の閉鎖(飲食店はテイクアウトのみ営業可)などとこれまで以上に厳しい内容となっている。 しかし伝統的市場などでの人出、人流は依然と絶えず、こうした場所での感染拡大、クラスター発生の懸念が高まっている。 ===== 7月20日に行われたイスラム教の伝統的重要行事である「犠牲祭」は、牛や羊を屠り犠牲となったその肉を近隣住民が分かち合うという宗教行事だが、各地で閉鎖が求められているイスラム教の宗教施設である「モスク」やその周辺で多くのイスラム教徒が集まり、犠牲祭を祝う行事に参列する様子がみられた。 行き過ぎる取締りに反発も こうした規制違反に対し、州政府などは警察官だけでなく軍兵士、地方政府警備員なども動員して摘発を強化している。 ところがティト・カルナファン内務相は、規制違反を取り締まる「自治体警備隊(SatpolPP)」と呼ばれる警備隊員に対して「決して暴力的、高圧的姿勢をとってはならない」と注意喚起する事態となっている それというのも「SatpolPP」と呼ばれる人々は州政府などの公共機関から依頼を受けて市中の規制違反者の発見、警告、摘発を主に行う人々。 揃いの制服を着て、違反者に対して高圧的な姿勢で臨んでいる、として批判が絶えない。彼らの巡回や摘発に際しては警察官や兵士が同行していることが多く、「権威を借りて偉そうに振る舞う」と悪評、反発が強くなっている。 人権団体の「犯罪正義改革委員会(ICJR)」は、規制違反は刑法犯として摘発されるが、その適用範囲が不明確で摘発に際しては人権に対する違反の事例もある、として治安当局に適正な摘発を徹底するよう求める事態となっている。 今後の方針は不明確 インドネシア政府は「緊急大衆活動制限」を25日までの延長を決めたものの、26日以降の感染防止対策の具体的な展望を示していない。 各種の感染防止対策への政府予算の追加配分、ワクチン接種の促進と徹底などの対策を講じているが、26日以降に現在の厳しい規制を解除あるいは緩和できる状況にはないのが現実だ。 インドネシアのコロナ感染状況は7月20日現在、感染者295万50人、死者7万6200人と東南アジアで最悪を記録し続けている。 政府が積極的に国民に進めているワクチン接種だが、中国製ワクチンへの不信感も高まっている。接種開始直後に優先的に接種を受けた医療関係者の間で感染、死者が出たためで、中国製ワクチンの「有効性、安全性」へ疑問符が突きつけられたのだ。 こうした状況にジョコ・ウィドド政権は国民には中国製ワクチン接種を進める一方で、既に中国製ワクチンを接種した医療関係者に3回目の接種として、英アストラゼネカ社製ワクチンや最近、緊急使用を認可した米ファイザー社製ワクチンによる”ブースター接種”を進めることを明らかにしている。 こうしたワクチンをめぐる問題も浮上するなか、ひとまず「規制延長」を決めたものの、根本的な感染防止対策を国民に具体的に示せず、不透明さばかりが浮き彫りとなっているジョコ・ウィドド政権、州政府などへ、国民の不満や不信感が広がりつつある、というのがインドネシアの現状だ。 [執筆者] 大塚智彦(フリージャーナリスト) 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

Source:Newsweek
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