06.15
野村HD、みずほFG、三井住友FGとインパクトスタートアップ2社が語り合う、「インパクト投資元年」の幕開け
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社会の課題解決に向けた「資本主義のアップデート」、その向かう先が見えてきた。
「社会課題の解決」と「持続可能な成長」の両立を目指すスタートアップ企業が集まる「インパクトスタートアップ協会」(ISA)に2月、野村ホールディングス、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの金融大手3社が加盟した。
これまで投資の世界は、「リスクとリターン」のみで価値判断がされてきた。そこに、環境や社会への影響を示す「インパクト」という第3の軸を、実際にどうやって組み込んでいけるのか。
ISAの理事も務める READYFORの米良はるかさん、へラルボニーの松田崇弥さん、ISA賛同会員である三井住友FGの髙梨雅之さん、野村HDの太田洋子さん、みずほFGの末吉光太郎さんが、経済に「インパクト」の軸を取り入れ、「売上が上がるごとに、社会も良くなる」世界を実現する方法を語り合った。
「売上が上がるごとに、社会も良くなる」ために乗り越えるべき壁は?
ーー2021年に1兆3,204億円だった日本のインパクト投資残高が、2022年には5兆8,480億円、1年で約4.4倍の急成長を見せています。今まさに「インパクト投資元年」の入り口にプレイヤーが揃ってきた段階だと思いますが、乗り越えるべき壁はなんですか?
みずほFG・末吉さん:
一番大きな壁は、インパクトをどう評価するかということです。やっているフリをして実態が伴わない“ウォッシュ”にならないように、本当の意味で効果をしっかり説明しないといけません。
インパクト評価は、評価に留まらず最終的には「経営判断」に活用され、また企業価値の評価にも織り込まれる世界を構築する必要があります。その中で、事業・金融・行政など様々なイニシアティブがバラバラに活動するのではなく、有機的に繋がりエコシステムとして連動することが重要で、それらを実現するためにもインパクト投資に関する人材育成も重要な課題です。
野村HD・太田さん:
私は金融商品のリスクリターンを分析する部署で、新たな軸となる「インパクト」について、「定量化できるのか」、「リスクとリターンとはどういう関係があるのか」ということを分析してきました。
例えば環境系のインパクトは、CO2排出量など開示する指標が整っているのでしっかり測定・評価でき、かつ企業価値評価に盛り込む形で実際に使えています。問題は社会的なインパクトの評価。ひな形のようなものがなく、社会的インパクトの開示の整備が今後の課題だと思っています。
もう一つは、インパクトが発現して、さらに社会課題が解決するまでには時間がかかるため、長期的に寄り添える投資家が必要だということです。今はIPOの前後でマーケットも投資家も分断している状態。上場と非上場の垣根を越えて投資する「クロスオーバー投資」をする投資家が、日本にもしっかり根付いていくといいですよね。
READYFOR・米良さん:
インパクトスタートアップとしても、長期的にみてくれる投資家に、どうやって自分たちの目指しているインパクトを定量的に伝えていけるかは課題です。それがきちんと伝わらなければ、私たち企業側によるインパクトの話は“ただのアピール”に映ってしまい、結局分かりやすい売上や利益だけでの投資判断になりがちです。
しかし、売上や利益だけを追求した先に、本当に幸せな社会があるのかは疑問です。だからこそ、業界で標準化された「インパクト」の評価のフォーマットや規格がとても大事で、ISAの中でも学び合いながら少しずつ事例が出てきています。
今回、賛同企業として加盟してくださった金融大手や大企業の皆さんと一緒に、企業が取り組む課題のジャンルごとに事例を積み重ねて、社会に与えたインパクトを評価する規格を作り、さらに投資家サイドからも合意がある状態を作っていきたいと思っています。
三井住友FG・髙梨さん:
弊社は今年、新たな中期経営計画を公表し、「社会的価値の創造」を柱の一つに据えました。経営戦略の中心に社会的インパクトの考え方を取り入れていく動きだと捉えています。
今後、インパクトという「新たな物差し」を作っていく上では、我々金融機関のみならず、幅広いお客さまとの協働が必要となりますが、広範なネットワークを有するメガバンクだからこそ貢献できるポイントもあると思います。
ただし、資金提供者にとっては、お金を提供することによって、いずれ自分たちにインパクトが戻ってくるという形がないと、インパクト投資は大きくなりません。例えば、インパクトがどうやって「企業価値」に反映されるのかについてはまだ浸透していない印象で、乗り越えていかないといけない壁なんだろうと思っています。
へラルボニー・松田さん:
本当に企業価値にインパクトが反映されるようになったら、スタートアップや会社自体の考え方も大きく変化すると思っています。
例えば知的障害のある人たちの領域で「虐待」は非常に大きな課題ですが、そこに取り組んだとしても経済性はなかなか見込めず、株式会社として挑戦しづらい。でもインパクト指標で考えたら、もう、指標からはみ出るくらい重要なことです。
もちろん非営利でしかできないこともありますが、企業価値にインパクト指標が乗ることで、本当の意味で解決しなきゃいけない課題にタッチできたら。資本主義だからこそ、一気に解決できる可能性が出てくると思うんです。
政府も動き出した
ーー5月29日には金融庁が「インパクト投資」で求める要件などをまとめた指針案を初めて発表しました。また岸田政権の「新しい資本主義」の柱の一つ「スタートアップ育成5か年計画」でも、インパクト投資の促進やインパクトスタートアップの支援が明記されているなど、政府も動き出していますね。
野村HD・太田さん:
私自身は昨年の10月から金融庁のインパクト投資等に関する検討会のメンバーをしており、インパクト投資をどうやって普及・拡大していくか、多彩なメンバーと一緒に議論しています。
金融庁で話題になったのが、民間で取り組むべき日本の社会課題は何なのかということ。これを明確にした上で、例えば5年後にはその社会課題がどこまで解決するのかなどの目標値を、国が示すことが重要だと考えています。
日本における社会課題の解決度を測るマクロ・ミクロの指標である「インパクトKPI」の設定を、インパクトスタートアップ協会の皆さんと一緒に、国に対しても働きかけていきたいですね。
READYFOR・米良さん:
そうですね。事例がないまま空中戦で話していても進まないので、インパクトスタートアップ協会で連携して事例を作って政府に理解していただくと、制度が変わっていくことにも繋がっていくと考えています。
政府の取り組みでいうと、例えばイギリスにはCIC、アメリカにはパブリックベネフィットコーポレーション、タイにも社会起業家の法人格があります。そういった法人格に税金の面でメリットがある仕組みを作ることで、社会課題を解決するプレイヤーを非営利から事業性のあるところまで広げていく取り組み事例などもあり、そういったグラデーションの広げ方もあるのかなと思います。
へラルボニー・松田さん:
海外の事例でいうと、5月に経産省の西村康稔大臣と一緒に、フランス政府がスタートアップのための施設に改装した「ステーションF」という場所を視察しました。
ステーションFではアマゾンやLVMHなどの大企業とともに、選りすぐりのスタートアップが入居していて、優先的にいろんな投資を受けたり、事業が生まれたりしています。
フランス政府がそういう場所でエコシステムを作り込んでいて、西村大臣も「こういった場所を日本にも作っていきたい」と明言していました。まさに日本政府もインパクトを生み出せる会社を育てていくぐらいの気概でやっていただけるのは、すごくありがたいことだなと思っています。
投資家をどう巻き込めるか
ーーお金を投資する側のインパクトに関する理解をどう広げていくかも、一つ大きな課題だと思います。どのようにコミュニケーションをとっていきますか?
三井住友FG・髙梨さん:
我々は取り組むべきマテリアリティ(重点課題)を、「環境」、「DE&I・人権」、「少子高齢化」、「日本の再成長」、そして通常ビジネスでは難しいとされている「貧困・格差」も含めた5つに設定しています。
それぞれについてインパクトベースのKPIを設定し、ステークホルダーに伝え、さらに市場にも広げていかなければならないと思っています。
みずほFG・末吉さん:
機関投資家の視点で見ると、インパクト投資と受益者責任の関係において、インパクトの要素を考慮した投資が受託者責任に反するものではないという整理が重要だと思います。
責任投資原則(PRI)は、「社会・環境的インパクトに係る目標」を達成することが「収益的な目標」の実現にもつながる場合には、機関投資家が「インパクト」を追求することに合理性がある、と示しています。このような意識改革を促せるように制度設計やメッセージングをしっかりしていくことが重要だと考えています。
また、アセットオーナーというと難しい言葉になりますけど、この記事を読んでいる皆さん一人一人もアセットオーナーの一人です。どの銀行にお金を預けるか、年金はどのように運用されているかを考えるとき、「インパクト」の考え方があることを知っていただくのがまず大事なことの一つかと思います。
READYFOR・米良さん:
機関投資家がインパクト指標を取り入れるように変わるかどうかも、巡り巡って一人ひとりの考え方次第ということですよね。
10年後、20年後、30年後、どういう社会を自分たちは残したいのか、ということに一人ひとりの目線が行けば、何を判断するかってあまり変わらないはずだと思っています。このインパクトの取り組みは、最終的に人々の価値観を変えていく取り組みにならなければ、最後のゴールには達成しないんだろうなと思います。
Source: HuffPost