2023
06.13

「LGBT“差別”増進法」にNO。プライドパレードすら、できなくなる危機。「こんな法を通す国は、本当に最低です」

国際ニュースまとめ

LGBT理解増進法について抗議する参加者LGBT理解増進法について抗議する参加者

【関連記事】「LGBT理解増進ではなく、理解”抑制”法案」。パートナーシップ制度の抑制も意味する、その問題点とは?

LGBT理解増進法案」の修正案の内容に抗議する緊急集会が6月12日夜、国会前で開かれた。

法案では「全ての国民の安心に留意する指針を、政府が策定する」という条文が加わった。LGBTQ当事者や有識者は、これで自治体のパートナーシップ制度や差別禁止条例、学校でのLGBTQに関する教育などを国が抑制できるようになるのではないかという危機感を強めている。

この日は当事者やアライの人々が集まり、「これはもはや、理解を増進する法律ではありません。むしろ理解を阻害、抑制し、もっと言えば、差別を増進するためのものだとしか思えません」と訴えた。

LGBT理解増進法案、問題点は?

法案は、自民・公明の案に、日本維新の会、国民民主両党の主張を取り入れつつ修正したものだ。6月13日に衆議院を通過。21日の国会会期末までに成立する可能性が高い。

法案の中で最も問題とされているのが、以下の部分だ。

第十二条 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。

有識者によると、この条文は「政府や自治体、学校などで『多数派が“安心“できる範囲』でしか理解を広げない」という解釈が可能になるという。実際、自民党の古屋圭司氏(衆院岐阜5区)は自身のブログで「この法案はむしろ自治体による行き過ぎた条例を制限する抑止力が働く」などと発信している。

反対派が理解を阻害する法案、「ない方がまし」

「廃案を求めざるをえない」と訴える松岡宗嗣さん「廃案を求めざるをえない」と訴える松岡宗嗣さん

12日に国会前で開かれた緊急集会。集まった人々はどんな思いを語ったのか。

一般社団法人『fair』の松岡宗嗣さんは、「先日、『LGBT法案ができるみたいだね、よかったね!』という言葉をかけられました。引き裂かれる思いになりました」と語った。

「もしこの法律ができたら、今後、国が基本計画をつくり、指針をつくる際、つねに『多数派が安心できる範囲で』『家庭や地域住民の協力が必要で』と、反対派から理解を阻害する方向への働きかけが行われていくでしょう。こんな法律だったらない方がましです。廃案を求めざるを得ません」

また今回の法縁では、学校での教育や啓発について、 「家庭及び地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という文言が追加された。松岡さんは「つまり、地域住民やその他の関係者が反対したら、学校での理解を広げることはできないということです」と指摘。

自民党の西田昌司氏(参院京都府選挙区)は、自身のYouTubeで、自治体の小学校5-6年生向けの冊子をやり玉にあげ、「地方や民間団体が過激な方向に走らないよう歯止めをかける、規制するための道具としてLGBT法案が必要」だと言い切った

「過去にも、2000年代は性教育やジェンダー平等に対するバッシングが起き、学校現場が萎縮しました。いまでも適切な性教育が実施されていません。これと同じことがいま繰り返されようとしています」(松岡さん)

日本中のプライドパレードができなくなる危機

「もはや、差別増進法と言える内容だ」ーー。参加者はプラカードでこう訴えた。「もはや、差別増進法と言える内容だ」ーー。参加者はプラカードでこう訴えた。

LGBT理解増進法案の議論が進む中で、トランスジェンダーに対する根拠なきバッシングが加速している。今回の法案でも、行政文書などで使われている「性自認」について、「ジェンダーアイデンティティ」に変更された。それは「“⼼が⼥”だと⾔っただけで⼥湯に⼊れるようになる」などといった誤った認識を踏まえたものだ。

Transgender Japan』共同代表の畑野とまとさんは、「今、日本はトランスヘイトの嵐です。トランスジェンダーを排除しようというビラ配りが日本中で行われ、公衆トイレにもそのビラが貼られています。若い子たちがそれを見て、どう思うと考えますか?もう何人もの人たちが、自分たちの未来を信じられなくて、自ら命を経っています」と指摘。

一部の保守系メディアは「トランスジェンダーの人権が認められると、女性の人権が脅かされる」という言説を繰り返している。畑野さんは「どの口が言うんだと、憤りを感じます。本気で、女性の人権を考えたことなんてないでしょと。それだけ女性の差別が気になるんだったら、ジェンダーギャップ指数が低いこの国をなんとかしようと、なぜ声をあげないんですか」と主張。

「実際には、私たちの団体と一緒に活動してくれている女性団体がたくさんあります。なのに、LGBTQ当事者の人権を認めたくない人たちが、『女性差別』という言葉を使えば、みんな納得するだろうと(盾にしています)」と分析する。

また、「全ての国民の安心に留意する指針を、政府が策定する」とした今回のLGBT理解増進法案について、「この法律にそっくりな法律を持っている国が一つあります。(同性愛に関する宣伝を禁止する)ロシアの『ゲイ・プロパガンダ』禁止法という法律です」と指摘。

「この法律が通ることで、どこかの団体などが、『ある場所を貸し出すのをやめてほしい』と言うと、(国内最大級のLGBTQイベント)『東京レインボープライド(TRP)』をはじめ、日本中のプライドパレードができなくなる、危機に陥る可能性すらあります」

「子どもたちに悪影響を与えるから、声を上げるのをやめてほしいという法律が今、日本で通ろうとしています。こんな法律を通す国は、本当に最低です」

「ずっと、やりたいことよりも、声を上げることを選択して生きてきた」

編集者やフォトグラファー、ライターとして活動する中里虎徹さんは「今日この場に来る途中に、いろんなお家から夜ご飯のにおいが香ってきて、お腹空いたなと思いながら考えたの。虎徹が欲しい未来や社会って、ここに来ることではなくて、お家でゆっくり美味しいご飯を食べたり、好きな友達と遊んだりすることだと思ったの」と切り出した。

その上で、自分のこれまでの人生について、「この間、友達と『うちらさ、もし自分たちの権利や暮らしが守られている社会で生きていたら、一体何してると思う?』って話になったの。正直、何も浮かんでこなかったの。ずっと、自分が幸せになる未来を想像できずに、自分のやりたいことよりも、声を上げることを選択して生きてきたから」と回顧。

「もしそんな未来がきたとして、自分が何をしたいか、どんなものに好奇心や探究心を持って生きられるか。そんな贅沢なこと、虎徹、考えたことないって思っちゃったの」と振り返った。

どんな人生を望むのか。中里さんはこう語った。

「多くの人が自分たちの好きなことや人たちと、好きな暮らしをしている。そんなふうに生きられる社会で、虎徹も生きたかったよってすごく思ったの」

「このLGBT理解増進法、別名『LGBT差別増進法』が進んでしまうことで、私たちにそういう未来はこないと思っています。だからはっきりと、この法案に対して、NOを突きつけたいと思います」

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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Source: HuffPost