05.31
誰にも「LiLiCo」と呼ばれない4日間。コロナ後のスウェーデン帰国で見つけた、自分のルーツ
世間を騒がすイシューからプライベートの話題まで、LiLiCoさんがホンネで語り尽くす本連載。今回のテーマは、「4年ぶりのスウェーデン」です。
18歳でスウェーデンを離れたLiLiCoさんは、多忙な中、プライベートや仕事でたびたび故郷へ帰国してきました。しかし、コロナ禍でそれを断念。今回は、4年ぶりの帰国となりました。コロナ後のスウェーデンに降り立ったLiLiCoさんは、どんなことを感じたのでしょうか。
家族や親友とスウェーデンで4年ぶりの再会
今年のゴールデンウィークは2019年の7月以来、4年ぶりにスウェーデンに帰りました。4月29日、毎週生放送で出演している『王様のブランチ』(TBS系)を終えたその夜に出発し、スウェーデン時間の4月30日朝7時に到着。4日間滞在しました。
到着した4月30日はちょうど「ヴァルボリ」という伝統行事の日。長い冬のあいだに家の庭に落ちた葉っぱや枝を街の中心地に集めて大きなたき火をして春の訪れを祝う日です。朝の気温は4℃。空港の外に出た瞬間、鼻の中がパリッと凍りました(笑)。
これまで仕事を絡めてスウェーデンに帰ることが多く、テレビクルーや出版関係者、ファンなど日本の友人を連れて帰国していましたが、今回は久しぶりの一人での里帰り。4日間まったく日本語を使わず、ストックホルムにある自分のマンションに滞在して、完全に「スウェーデン人の娘、姉、おば」として生活していました。
旅のメインイベントは、4月30日に80歳を迎えた父の誕生日を祝うこと! 父、父のパートナーのブリット、ブリットの娘さんとその恋人、弟家族と私の計9人で弟の家に集まって、パーティーを開きました。
写真を送り合ったりオンラインで顔を見たりすることはありましたが、実際に会うのは4年ぶりです。この目で家族の姿を見たら、涙が止まりませんでした。父の「今日はみんな集まってくれてありがとう」という挨拶も、シンプルな言葉ながら心に深く染み入りました。
一番感動したのは、姪っ子と甥っ子が大きくなっていたこと! 特に13歳の姪っ子はずいぶんとお姉さんになり、その成長ぶりに涙したり、おしゃべりを聞いて自分の思春期を重ねたり…。
父のお祝いだけでなく、弟のパートナーの誕生日を祝ったり、母のお墓参りをしたり、親友を訪ねて生まれ育った街に行ったりと、今回は自分のルーツをたどる旅になりました。
7歳からの親友のカッティスは、ハグをしながら何度も「目の前にいるなんて信じられない」と言ってくれました。親御さんもいつものように「娘のようだ」とハグしてくれて、お元気そうな様子に安心しました。
コロナ禍で人口が増えたスウェーデン
誰かを案内する必要がなかった今回の旅では、観光はしませんでした。目に入ったのは、街や建物ではなく、人々の様子。街に人が多く、5月のスウェーデンはオフシーズンなのに、電車も今までとは違う混み方をしていたのです。
コロナ禍でスウェーデンは、50人以上の集会を禁止する、ワクチン接種を推奨するなどしつつ、70歳以上を除いて行動制限をせず、マスク着用も個人の判断に任せるという緩やかな対策を取ってきました。
友達の話では、そんなスウェーデンに、コロナ禍でロックダウンしたヨーロッパの都市から移住する人、長期休暇を取って滞在する人がとても増えたそうです。実際に、街ではいろいろな言語が聞こえてきましたし、私が住んでいた頃は800万人程度だった人口が今では1000万人を超えています。
活気のある街を見て、スウェーデンのコロナ対策に対する私の印象は変わりました。コロナの感染拡大が始まった当時は、スウェーデンの対策に関するニュースを見て、「本当の結果は数年後にしか分からないものの、同じスウェーデン人として恥ずかしい。みんなで免疫をつけようって、コロナの詳しいこともわからないのに、せめてマスクをすればいいのに」と考えていました。
ただ今回の帰国で、スウェーデンのコロナ対策はスウェーデンに合った対策だったのかもしれない、と感じました。人口密度の高い日本と違い、満員電車もスクランブル交差点のような混雑も無縁なスウェーデンは人が“密”になることを制限しやすいから、政府はあのような対策に行き着いたのだろう、と。
スウェーデンの変化。徴兵制やエコな考え方
家族や友人との話や生活を通して、ここ何年かで起きたスウェーデンの変化についても知りました。例えば、スウェーデンの徴兵制は2010年に一度廃止になりましたが、2018年に復活した際、その対象に女性が加わったそう。「満18歳以上の男性」から「満18歳以上の男女」になったのです。
滞在中には、「洋服など布製品の廃棄を禁止する法律ができる」というニュースを見ました。着なくなった洋服は次の使い手に渡すか、リフォームしてまた着るか、バザーに出すか…。もし服を捨てたら罰金制度の可能性も、とのことでした。
スウェーデンは、環境先進国。ゴミの9割はリサイクルかエネルギー源として再利用されています。家庭ゴミのうち、生ゴミはまとめて専用のコンポストへ。その他のゴミは、マンションなどのゴミ捨て場ではなく、街の「リサイクルステーション」でプラスチック、段ボール、缶、瓶…と分別して捨てる仕組みになっています。将来的に、そこに「布」のボックスができるのかもしれません。
生活していて、電子化が進んだのも感じました。以前からスウェーデンはクレジットカード文化でしたが、支払いはスーパーも公衆トイレも、カードか電子マネー。スーパーもセルフレジがほとんどで、店員さんのいるレジに並ぶのは年配の方だけです。レジ袋は売っていますが、みんなエコバッグ。出口のドアはレシートにあるQRコードを読み取らせると開くシステムでした。
一方で、日本には無料の公衆トイレがたくさんあるし、どこにでも自動販売機があって飲み物が買え、酒屋は休日でも営業している。日本の便利さも再確認しました。
「私は誰がなんと言おうとスウェーデン人」
一言も日本語を話さず、誰にも「LiLiCo」と呼ばれない4日間、私は自分のルーツと出会い、一度リセットできた気がしています。
家族や親友と再会し、芸能生活34年目に入る5月2日は行ってみたかったレストランでお祝いをして、映画館に行き、ウェブショップ「LiLiCoCo」で紹介したい良い出会いもありました。
街でショッピングをしたり、テレビでサッカーのスウェーデンカップを観たり、役所へ行ったり、銀行口座の整理をしたり…そんな特別じゃない日常も過ごしてわかったのは、自分は誰がなんと言おうとスウェーデン人なのだということ。日本に34年いても、18歳になるまで過ごしたスウェーデンは、ほかでもない私のルーツなのです。
家族とお別れをしているとき、いつも「これで会うのは最後かもね」と言う父が、その言葉を言いませんでした。きっと気持ちが元気になってきているのでしょう。今度は夏に夫婦でスウェーデンに帰国する予定。観光シーズンのスウェーデンがどれだけにぎわうか、今から楽しみです。
(取材・文=有馬ゆえ、写真=川しまゆうこ、編集=若田悠希)
Source: HuffPost