07.15
存在しない光が見える? デザイン会社のロゴから新たな錯視画像が誕生
<実際に見たことよりもさらに納得しやすい状況を想定してしまう、人間の脳の想像力が原因なのだという> 脳の勘違いによって実際の画像と異なる印象が生じる「錯視」は、いつも私たちの興味を掻き立ててくれる視覚現象だ。そんな錯視現象について6月末、ニューヨークの心理学者などが新たなパターンを確認した。 「シンチレーティング・スターバースト(知的で面白い放射パターン)」と命名されたこのパターンは、正七角形を4つ絡ませて1本の円環状にしたものを、さらに同心円状に何層も配置したものだ。図形の中心部を見るようにすると、中央から外周へと複数の光の筋が放射状に出ているように見える。 Michael W. Karlovich and Pascal Wallisch – CC BY 4.0 図形はニューヨークでデザイン会社を営むマイケル・カルロビッチ氏が、自社のロゴを考案する過程で発見した。カルロビッチ氏は研究者としての顔も持つことから、ニューヨーク大学心理学部のパスカル・ウォリッシュ准教授と共同で研究を進め、新しい種類の錯視であることを確認した。結果がこのほど論文として発表されている。 論文執筆にあたり二人は100人以上の被験者でテストを行い、錯視が広く認められることを確認したという。また、デザインの細部を変更してさまざまなパターンで検証したところ、正七角形以外の正多角形でも効果を発揮することが判明した。多角形の頂点の数を増やした方が、よりはっきりとした光の筋を見やすいという。ただし当然ながら、増やしすぎてほぼ円形になってしまうと、この効果は失われる。 このほか、層状に重ねる同心円の数を増やした場合にも、より強力な錯視効果が得るうえで有効であった。背景と紋様のコントラストを高めたり、図形全体をアニメーションで回転させたりすることも効果が高く、さまざまなバリエーションで成立させることが可能だという。 そのしくみは? 手薄な周辺視野がポイント ないはずの光が見える不思議なメカニズムについてウォリッシュ准教授は、自身のブログを通じ、主に2段階のメカニズムによって生じると説明している。 第1のポイントは、人間の視野のなかでも周辺部分の解像度が比較的低い点だ。周辺視野は色や形などをくっきりと認識することができず、これが錯視に関わっているのだという。 あらためて図形を確認すると、何もない中心部は白くなっており、明らかに明度が高い。また、この部分は視界の中央にあたる中心視野で捉えるため、かなりはっきりと認識することができる。 一方で外側の同心円の環は、複雑な文様だ。この部分は中心から離れており、周辺視野で捉えることになる。私たちの網膜上には光を捉える多くの神経節細胞があるが、均等に分布しているわけではなく、周辺視野を映す場所はいわば手薄だ。専門的にいうと「空間分解能が低い」状態であり、例えるなら解像度の低い粗い動画を見ているような状態になっている。 このため、外側にある文様ははっきりと認識できず、脳は場所ごとの大まかな濃淡を理解できるのみだ。文様には線が二重になっている部分と交差して一重になっている部分が交互に現れるが、このうち一重の部分が比較的線の密度が薄く、明るめに見える。 このように、周辺視野の解像度が粗いことによって、外環上にまばらに明るいスポットがあるように錯覚することが原因の第1段階だ。 ===== 第2のポイントは、脳の「点と点を結ぶ」性質 ウォリッシュ准教授は第2段階について、人間の目が点と点を結びたがる性質を持っているためだと説明する。「点と点を結ぶ」とは慣用句であり、より具体的には、限定的な手掛かりから意味のある全体像を推察しようとする振る舞いを意味する。 准教授はこの振る舞いの例として、「カニッツアの三角形」と呼ばれる有名な錯視パターンを例に挙げている。カニッツアの三角形は、欠けた部分のある3つの円が離れて配置されているが、それぞれの円の切り欠き部分をつなぐような正三角形があるかのように見えてしまう錯視画像だ。 Michael W. Karlovich and Pascal Wallisch – CC BY 4.0 一部が欠けた円が偶然にも特定のパターンで並んでいると捉えるよりも、3つの円が白い三角形に一部を覆い隠されていると想定する方が自然だ。このため、脳は存在しない輪郭を想定し、三角形の図形が存在するかのように認識する。 このように人間の目は根本的に、与えられた視覚情報をもとに、より説得力のある状況を想定し、そちらを信じようとする性質がある。これが脳が「点と点を結ぶ」性質の本質だ。 星座をイメージするように…… ウォリッシュ准教授はシンチレーティング・スターバーストについて、以上の2つの現象の組み合わせで生み出されていると考えている。第1段階では周辺視野の特性により、詳細な紋様が単純な濃淡で認識され、円環上に明るい部分と暗い部分があるように錯覚する。 続く第2段階で脳が状況を理解しようとし、中心部の明るい領域と外周の明るく見える領域に何らかの説得力のあるつながりを見出そうとする。その答えが放射状に放たれる光というわけだ。中心から外側にかけて、複数のリングの明るい部分が一体となり、本来は存在しないはずの光の筋を感じることになる。 ウォリッシュ准教授はブログ記事において、たとえば星を結んで星座をイメージするように、人間の脳は不確実な情報同士を結びつけて納得できる解釈を生み出そうとする、と説明している。デザイン会社のロゴから発見されたシンチレーティング・スターバーストの錯視は、人間の無意識の想像力を示す興味深い例といえそうだ。 ===== The “Scintillating Starburst” Stimulus
Source:Newsweek
存在しない光が見える? デザイン会社のロゴから新たな錯視画像が誕生