2023
04.29

<北朝鮮内部調査>平壌文化語保護法による「言葉狩り」始まる(2) 「韓国式に話して連行されている」 住民に取締りの実態を聞く

国際ニュースまとめ

(参考写真) 検問所で警察官が監視の目を光らせている。「平壌文化語保護法」の最高刑は死刑。警察も取り締まりに乗り出している。2011年1月平安南道にて撮影キム・ドンチョル(アジアプレス)

<北朝鮮内部調査>平壌文化語保護法による「言葉狩り」始まる(1)「韓国語、方言、外来語を撲滅せよ」 最高刑は死刑と明記

◆最高刑は死刑

金正恩政権は今年1月に「平壌文化語保護法」を制定した。4月に入って、企業や社会団体で本格的な取り締まりキャンペーンが始まった。韓国の言葉遣いや、外来語、日本由来の言葉、方言を徹底した排斥が呼びかけられ、これらの言葉を使った人が警察に申告されて調査を受ける事態まで発生している。「平壌文化語保護法」の最高刑は死刑だ。始まった「言葉狩り」の実態を北部地域に住む取材協力者に聞いた。(石丸次郎/カン・ジウォン

◆韓国式の「オッパ」「ニム」は使用してはならない

「平壌文化語保護法」の条文には驚かされる。韓国を傀儡と呼ぶ条文は敵意に満ちあふれている。法の全文は韓国の北朝鮮専門メディアの「デイリーNK」が3月に入手して公開した。いくつか紹介しよう。
※全文訳は連載の第3回目に掲載する。

第18条(傀儡の言葉カス撲滅の基本要求)
傀儡の言葉カスを撲滅することは、我が社会主義制度と我が人民の精神文化生活を守り、革命陣地、階級陣地をさらに固めるための重要要求である。機関、企業所、団体と公民は透徹した対敵観念を持ち、我が言語生活領域に侵襲した傀儡の言葉カスを全社会的な闘争で無慈悲に掃き捨てなければならない。

第19条(傀儡式の呼び方を真似る行為の禁止)
公民は、血縁関係ではない青春男女の間で《オッパ》と呼んだり、職務の後に《ニム》を付けて呼んだりするように、傀儡式の呼び方を真似る行為をしてはならない。少年団時代までは「オッパ」という呼び名を使うことができるが、青年同盟員になってからは《同志》,《同務》という呼び方だけを使わなければならない。

「オッパ」は兄の意味で、妹が呼ぶ場合に使う。肉親でなくとも女性が年長の男性を「オッパ」と呼ぶのは韓国では一般的だ。韓国ドラマでも女性が年長の恋人を「オッパ」と呼ぶシーンがよく出てくる。「ニム」は様の意味で、韓国では役職に付けて呼ぶのが一般的だ。なお、金正恩氏は2020年9月に「オッパ」について「変態的な傀儡の言葉」と発言している。

「少年団」には、小学2年生から初級中学3年生までのすべての子供が加盟する。高級中学1年生からは「青年同盟」に組織される。子供時代は良いが青年になったら「オッパ」ではなく「同志」「同務」と呼べというわけだ(北朝鮮の義務教育は幼稚園1年、小学5年、初級中学3年、高級中学3年の12年間)。

◆子供に韓国風の名前を付けるのは禁止

さらに、条文では韓国風の言葉遣いを事細かく記して禁止している。

第20条(傀儡式の語彙表現を真似る行為の禁止)
公民は、言語生活で傀儡式の語彙表現を真似る行為をしてはならない。

第21条(傀儡の書体、傀儡の綴字法を使用する行為の禁止)
公民は、傀儡の書体と傀儡の綴字法で文を書いたり文書を作ったりしてはならない。

第22条(傀儡式の抑揚を真似る行為の禁止)
公民は卑屈で、なよなよして、嫌らしく語尾を長く引き伸ばして上げる傀儡式の抑揚を真似る行為をしてはならない。

第23条(傀儡式の名前付けの禁止)
公民は、子どもたちの名前を傀儡式にむさ苦しく付けたり、手電話あるいはコンピュータ網で傀儡の言葉を真似た仮名を作って使う行為をしてはならない。

※手電話は携帯電話のこと。コンピュータ網はイントラネットのこと。

2020年に入手した絶対秘密指定の文書の本文。上の傍線部は「オッパ」、「トンセン」、下は「変態的な傀儡の言葉、傀儡風が蔓延している」という金正恩氏の発言箇所。

◆韓国式の言葉遣いで容赦なく調査

2020年に入手した絶対秘密指定の文書の本文。上の傍線部は「オッパ」、「トンセン」、下は「変態的な傀儡の言葉、傀儡風が蔓延している」という金正恩氏の発言箇所。

アジアプレスでは、4月上旬から咸鏡北道(ハムギョンプクド)と両江道(リャンガンド)に住む取材協力者に、「言葉狩り」の実態について聞いた。今回は、両江道に住む取材協力者の女性の報告を記す。彼女は家庭の主婦で幅広く商行為をしている。

 

――取り締まりは組織的ですか?
女性同盟、企業所、団体で韓国式の言葉遣いや外来語や日本語に対する取り締まりをしろと指示がありました。取り締まりは(他人による)申告の形でしていて、韓国式の言葉遣いや方言、外来語、をすべて直すよう求めています。特に韓国式の言葉遣いについては、申告されれば容赦なく調査を受けます。どこで学んだのか、他の誰がそんな言葉を使っているのかまで、出所を問い詰めたりもします。

 

――取り締まりの具体例を教えてください。
「同志」、「同務」と必ず呼ぶように要求しています。「ニム」を付けることは問題視すると脅しているので、皆口に気をつけています。幹部たちからして演説する時に準備をしっかりしなければならないと強調しているそうです。

取り締まりがどれほどひどいか。子供たちが自分のオッパを大声で呼ぶのに、周りの顔色を伺うほどで、お互いに誰が呼んだのか見る程度です。

韓国式の言い回しを使って安全局(警察)に通報されて連れて行かれた人がたくさんいます。

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