03.08
上司に「女の子がいるとやっぱり花があるねえ」と言われた……どうする?
「ジェンダーを学ぶと生きやすくなるよ」
これが本書で一番伝えたいことである。
作家・アルテイシアさんの『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』はこんな言葉から始まる。
これまで、JJ(熟女)と自称しながら、ジェンダー、フェミニズムをテーマにしたキレのある爆笑エッセイ、コラムを数多く手掛けてきたアルテイシアさん。自分自身が経験してきた毒親問題や性被害、セクハラを「自分のせいなのか?」と悩んだことも紹介しながら、それらはジェンダー不平等の社会構造が強く影響していると発信する。「フェミニストは一人では戦えない」と話すアルテイシアさんに、私たちはどう自由になっていけるのか、聞いた。
上司から「女の子がいるとやっぱり花があるねえ」と言われた……どうする?
──アルテイシアさんは中高生にジェンダーの授業を行っていることを本に書かれていました。若い世代の感性がアップデートされているのが頼もしい反面、大人・自分たちの世代の方がダメだな、と反省する気持ちです。この前も、広告の仕事をしている女友だちに、「最近はあんたみたいなの(ジェンダー平等にうるさい人間)が多いから広告はたいへん」とボヤかれて何も言えませんでした。
アルテイシア:ショックですよね。 90歳のおじいさんとかに言われたら「もうすぐ鬼籍に入るしな」と諦めもつきますが……。私も女友だちと喧嘩したことがありますよ。彼女が性被害に対する二次加害的な発言をしたので、我慢できずにキレてしまった。
──面倒臭いやつだと思われないかな、と不安になってしまって、咄嗟にツッコめなかったりするんです。アルテイシアさんはどうされていますか?
アルテイシア:私の場合はフェミニストと公言しているので、「俺はいいけどYAZAWAが何て言うかな?」じゃないけど、「俺はいいけどアルテイシアは何て言うかな?」という感じになるんですよ(笑)。フェミニストとして、これは黙っとったらあかんやろ、と。でもこれは私がフリーランスで、自由度の高い立場だからできるのもありますよね。会社で上司に言えるかというと、言えない人も多いと思う。
それでも頑張っている人もいますよね。20代の女友だちは、上司に「女の子がいるとやっぱり花があるねえ」みたいなことを言われ、後から「いつもご指導に感謝しています。ただ、あの発言はちょっと引っかかったんですよね…」とやんわり伝えたそうです。
──なかなかできない対応だと思います。
アルテイシア:すごいことですよ。気を遣って伝え方に労力を割くのも面倒くさいじゃないですか。 だから、フェミニストにはとにかく羽を休める場所が必要だと思います。
私が主催しているオンラインサロン「大人の女子校」では「こんなモヤることがあった」「こんなふうに言い返した」と報告し合って、みんなで「わかる!!」「えらい!!」とスタンディング膝パーカッションしてます。
今、オンラインで気軽に参加できるフェミ系のイベントなども増えているので、安心してフェミトークできる場所を見つけて欲しいと思います。やっぱり、一人じゃ戦えないですよ。
ジェンダーの話で、自分が「否定された」ように感じてしまう人たち
──ジェンダーの話に極端に嫌悪感を示す人もいて、情報を素直に受け取ってもらうことが難しい、と感じることがあります。
アルテイシア:「窮屈な時代になって生きづらい」とか言われると「そうですか、私は生きやすいです」とつい返してしまいますが(笑)。そういう発言をする人は、不安なんだと思います。
若い女の子から聞いたんですけど、ジェンダーレス制服の話になった時、その場にいた女性の1人が「でも私はスカートを履きたいし、そうやってスカートを選びにくくなるのは良くないと思う」と言っていたと。いやいや、スカートもズボンも自由に選べるようにしようって話じゃないですか。スカートを履きたい人は履けばいいんだから。
にもかかわらず、スカートを選ぶ自分を否定されていると感じてしまう。そういう人は、みんな同じじゃないと不安なんですよね。
選択的夫婦別姓の議論もそうです。別姓にする選択肢を増やしたい、と言っているだけなのに、反対派の人は、同姓にしたい自分を否定されたように感じてしまう。
自分の選択を否定されたような気持ちになる人たちは、「人数が多い方が正しい」「みんな同じであれ」という日本の価値観に従ってきた優等生なわけですよね。だから、シンプルに「不安なんですね」「人と違うのが怖いんですね」と理解してあげる気持ちも大事かなと。そうやって不安や怖さを感じるのも、個人のせいではなく、同調圧力が強い社会のせいじゃないでしょうか。自分の感覚は時代遅れなんじゃないか、という不安もあるでしょうね。
──社会のアップデートについていけない不安もあるのかもしれません。
アルテイシア:あとは、自分と違う意見を言われると「責められている」と誤解する人もいますよね。
だから、私は自分の話をするようにしています。「私も昔は無意識にやらかしていたよ」「そんな過去の自分を反省しているよ」と。
それこそ、大学時代の私は政治や社会のことに無関心でした。バイト漬けで学費や生活費を稼いでいて、そんなこと考える余裕がなかったんです。
明日の米や来月の家賃が不安な時って、政治や社会のことに興味をもてない。昔は自分もそうだったんだ…という話からしていくと、「上からものを言っている」感じにならない、というのはあるかもしれません。
「どうすれば相手に伝わるか?」を考えながら、じわじわ、一歩一歩、着実に、だと思います。
私自身、10年前の自分は「別人かな?」って感じですから(笑)。人は変わるし、社会も変わる。希望は絶対にあるんですよね。
このヘルジャパンを少しでもマシなジャパンに
──自分の生きづらさが、自分だけのせいではなくて「これは社会の構造の問題では?」と気づけるのって、確かに若いうちや、目の前の暮らしに必死な状況下だと難しいです。
アルテイシア:フェミニズムはずっと、「パーソナル・イズ・ポリティカル」「個人的なことは政治的なこと」というメッセージを発信してきました。
政治に無関心でいられても、無関係でいられる人はいない。政治を遠く感じてしまうのは、いろんな原因がありますよね。
一つは、使う言葉が難しいこと。「新自由主義」と言われても、よくわからない人もいますよね。みんながわかるように伝えることが民主主義だし、共生社会じゃないですか。
だから、政治家の方とお会いする機会があると、「もっとわかりやすく話してください」とか「自分の言葉で自分の話をしないと響かないですよ」とか、わりとズケズケ言ってます(笑)
あと、国政の話って壮大になりがちですけど、自分たちがそれぞれの地域でできることをするのは大事ですよね。
たとえば、ノルウェーでは国民の4割がどこかの政党に所属していて、北欧では政治活動は部活動やサークルのような感覚に近いそうです。
私が参加している「東灘ジェンダーしゃべり場」でも、みんなジェンダーや政治の話を気軽にしてますよ。
神戸市議や兵庫県議の女性たちとおしゃべりすることで、「はじめて議員さんを近く感じた」と感想をくれる方も多いです。
私自身、地元に友だちができて楽しいな、という感覚です(笑)。やっぱり、楽しくないと続かない。サークル活動みたいに気軽に参加できる場所が増えるといいですよね。
──自分の住んでいる自治体から変えていく、というのは大事な視点だと思います。アルテイシアさんは、今後はどんなふうに発信を続けていく予定ですか?
アルテイシア:ジェンダーやフェミニズムに対して「意識高い」「難しそう」と思ってる人にも届くものを書きたい、作りたいと思います。
たとえば研究者や政治家でも、大切で意義のある研究や活動をしていても、あまり知られていない人って多いと思うんです。「それ中学生でもわかるように説明してください」みたいな感じで話を聞きに行く対談企画なんかやってみたいですね。
やっぱり、今の子供たちが大人になった時に、「え、昔はそんなに性差別や性暴力があったってマジ?」って言えるような、そんな未来を作りたい。
「ジェンダー平等を目指すのがフェミニストでしょ?だったらみんなフェミニストじゃなきゃおかしいよね」と言えるような未来にしたい。それが私の黄金のような夢ですね。
自分にできることを、みんながそれぞれの場所ですることによって、この社会が少しはいい場所になったらいいな、と思います。
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アルテイシアさん・プロフィール
作家。神戸生まれ。オタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』でデビュー。ユーモアあふれるその文章には性別を問わずファンが多い。著書に『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』『モヤる言葉、ヤバい人』など多数。
Source: HuffPost