2021
07.01

オーストラリアでも自由がない中国人留学生、中国政府が家族を人質に監視、互いの密告も奨励

国際ニュースまとめ

<民主主義を支持する発言や投稿を理由に中国当局から脅しや嫌がらせに遭うケースが増えている> 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは6月30日に発表した報告書の中で、オーストラリアの大学に在籍する「民主派」の中国人留学生たちが、中国政府に監視され、嫌がらせや脅しを受けていると指摘した。AP通信の報道によれば、ある学生は、ソーシャルメディアへの投稿を理由に刑務所に入れると脅された。 問題の学生はオーストラリア在住で、ツイッターに民主化を支持するメッセージを投稿していた。また別の学生は、クラスメートの前で民主主義への支持を表明したことを理由に、中国政府からパスポートを差し押さえられたという。 ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、各大学が中国人留学生の学問の自由を守ることを怠っていると指摘した。中国政府によるこのような侵害行為は年を追うごとに激しさを増しており、留学生にほかの留学生を監視させ、その言動を当局に報告させる例もあるという。 報告書を執筆したヒューマン・ライツ・ウォッチのソフィー・マクニール(オーストラリア担当調査員)は、「故郷から遠く離れた地で孤独な、弱い立場に置かれている留学生たちが、大学からも守ってもらえないでいると思うと胸が痛む」と述べた。「大学側は中国政府からの反発を恐れて、この問題をうやむやにしている。だがもう、そんなことは許されない」 以下に、AP通信による報道を引用する。 家族への「報復」が怖い オーストラリアに暮らす多くの中国人留学生や教員たちが「自己検閲」を行うようになっている。中国に住む家族が自分の代わりに当局の報復を受けるのが怖いからだ。 報告書の作成にあたっては、オーストラリアの大学に在籍する中国および香港出身の民主派の留学生24人、教員22人に対する聞き取り調査が行われた。それによれば、留学生のオーストラリアでの言動を理由に、中国の家族が警察から質問を受けたケースが3例あった。こうしたケースを受けて、オーストラリア在住の中国人留学生たちは警戒を強めていると、マクニールは指摘する。 「彼らは、ほかの若者たちと同じようにオーストラリアで自由を謳歌したいと考えている」と彼は述べ、こう続けた。「だが両親に何かあったらという恐怖から、それが出来ずにいる」 聞き取り調査を受けた全ての学生が、オーストラリアでの自分の言動を理由に、中国にいる家族が当局から処罰されたり、取り調べを受けたりする可能性を恐れていると語った。そのため彼らの多くが、オーストラリアでの自らの言動を自己検閲しているという。 また聞き取り調査を受けた教員の半数以上も、中国について話す時には自己検閲を行っていると語った。 「これが現実だ」と、ある学生はヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。「オーストラリアまで来ても自由になれない」 ===== オーストラリアの各大学にとって、これは財政的にも外交的にも微妙な問題だ。オーストラリア政府は国内の大学に対して、中国と提携関係を築くよう促しており、各大学はそれによって巨額の利益を得てきた。 海外からの留学生受け入れはオーストラリアの一大産業で、2019年には同国経済に300億ドルの利益をもたらした。同国のシンクタンク「独立研究センター」の2019年版の報告書によれば、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が発生する前は、海外からオーストラリアに留学してくる学生の40%以上が中国人だった。 だがパンデミックの発生でオーストラリアは2020年3月に国境を閉鎖。オーストラリア大学協会によれば、2020年に大学の収入は140億ドル減少した。2021年には150億ドルの減収になる見通しだ。最近になって、2021年後半から一部の留学生の受け入れ再開を目指す試験プログラムが発表されている。 「大学側に報告を」と呼びかけ 留学生に対する干渉を指摘されたことは、中国政府にとってきわめて厄介だ。オーストラリアは2018年、外国の主体による内政干渉を阻止するための法律を成立させた。中国がオーストラリアの政治や大学などの各種機関に密かに干渉することを阻止することが、この法律の主な目的とみられており、中国は法律の成立に激怒。両国間の緊張は高まっていた。 ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に答えた留学生の多くは、嫌がらせを受けたことを大学側に報告しなかった。大学は中国人留学生の権利よりも中国政府との関係維持を重視していると考えたからだという。 報告書を読んだオーストラリア大学協会の最高責任者、カトリオナ・ジャクソンは、中国人留学生や教員らに対して、いかなる嫌がらせも大学側に報告するよう促した。 ジャクソンは、各大学が中国の干渉を黙認しているということはないと否定。政府のタスクフォースと協力して問題の解決を目指していると主張する。「自由に議論し、知識を探究し、意見を戦わせることは、オーストラリアの大学が行う全ての活動の中核だ」 ===== マクニールは、留学生たちが直面する脅威を周知させることが、再発防止に役立つかもしれないと指摘した。ヒューマン・ライツ・ウォッチはオーストラリア政府に対して、外国人留学生に対する嫌がらせや検閲行為に関する年次報告書を作成し、また学生たちが外国政府の関与する嫌がらせや検閲、報復を報告できる仕組みをつくるよう提言。さらに各大学に対しては、嫌がらせや検閲などの事例を法執行機関に報告するよう促した。 オーストラリアのアラン・タッジ教育相は、提言を検討し、国家安全保障上のリスクについて調査を行う議会の委員会に助言を求める方針だと述べた。 「報告書が提起した問題は、きわめて憂慮すべき問題だ」とタッジは声明で述べ、「外国の主体による、我が国の大学へのいかなる干渉も容認することはできない」と断言した。

Source:Newsweek
オーストラリアでも自由がない中国人留学生、中国政府が家族を人質に監視、互いの密告も奨励