07.01
中国共産党100周年、習近平の「今後」を予測する
<世界がその動きを注視するが、いま何を狙っているのか。人権状況はさらに悪化する、米中貿易戦争は当分終わらない、頭痛のタネが2つある……。4つの観点から今後を予測する> 世界は今やアメリカではなく中国を中心に回っているかのようだが、当の中国は今年後半以降、どうなっていくのだろうか。 4つの観点から予測すると――。 国内の重点課題 まずは7月1日の中国共産党結党100周年を盛大に祝い、党の、そして党の指導下にある国家の長寿と繁栄を習近平(シー・チンピン)国家主席の業績に重ね合わせる(なにしろ2012年以来、党も国家もこの男の指導下にある)。 それができたら来年秋に予定する第20回党大会に向けた宣伝戦を開始し、習の続投(事実上の永久政権化)を正当化するイデオロギーを強化する。目指すは党大会で3選を果たし、自分に忠実な者を主要ポストに就けることだ。 党内の反対派を力で抑え付けるのは簡単だが、問題は14億の国民が個人崇拝とワンマン支配の復活を受け入れるかどうか。 中国共産党の結成に加わり、中華人民共和国の「国父」となった毛沢東が死ぬまで権力を手放さず、結果として「文化大革命」の悲劇を招いた事実を、国民は忘れていない。 もしも国民の納得が得られなければ、習が権力を維持する道はただ1つ。弾圧と粛清の恐怖政治だ。 それを熟知している習は今後も、せっせと自分の腹心を地方の党書記などに登用する一方で、「汚職追放」の名目でライバルの排除を進めることだろう。 人権状況は悪化 習が権力を維持するには愛国心と民族主義の鼓舞が一番だ。アメリカのバイデン政権は中国に対する強硬姿勢を続けるようだが、皮肉なもので、これが習政権を助ける。 香港における「自治」の否定と民主派への弾圧や、新疆ウイグル自治区におけるジェノサイド(民族大量虐殺)に反発するアメリカは、とりあえず同盟諸国を結集し、共同で中国に制裁を科すという宣言を出すことに成功した。 戦術的な勝利には違いないが、その代償は大きい。 中国側はアメリカとその同盟諸国が使った「ジェノサイド」や「強制労働」という語を逆手に取り、欧米諸国の言うことは嘘ばかりで、そういう主張の裏には邪悪な意図があると反論し、自らの議論を巧みに国民に売り込んだ。 習にとっては願ってもない状況だ。アメリカを中心とする外敵が中国の台頭を阻止しようとしている以上、それに対抗するには強力なリーダーシップが必要で、それを担えるのは自分しかいない。そういう理屈になる。 ===== 中国政府の弾圧に耐えている香港や新疆ウイグル自治区の人たちには悲しい知らせだが、彼らの状況が短期的に改善される可能性は低い。 香港に対する締め付けは、徐々にだが確実に強まる。民主派の活動家に対する逮捕・起訴・投獄攻勢は続く。報道の自由は奪われ、子供たちは学校で洗脳教育を受ける。 一方、ウイグル人の強制収容が今以上に増えることはなさそうだが、インターネットを通じた海外からの情報流入を遮断し、現地住民の監視を強化する動きは続く。 米中関係はいかに? 外国から何を言われても、習近平の中国は引き下がらない。彼は強気だ。そうであれば、アメリカとその同盟諸国は一段と結束を固めて対抗するしかない。 だからトランプ前米政権の始めた貿易戦争も、当分は終わらないだろう。 一連の政策レビュー(見直し)が終われば、バイデン政権は半導体や人工知能などの先端技術に的を絞った追加的な経済制裁を発動する。しかし急速な関係悪化はないだろう。 今年11月にイギリスで開かれるCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)で、アメリカは中国政府の協力を是非とも必要としているからだ。 報復関税の応酬を一時的に停止した「第1段階の合意」は年末に期限切れとなるが、両国とも少なくともあと1年間は延長で合意するだろう。時間を稼ぎ、新たな貿易交渉を始めたいからだ。 ただし交渉の早期合意を期待するのは間違いだ。バイデン政権は来年11月に中間選挙を控えている。その前に安易な妥協はできない。 アメリカとの関係で最も危険かつ予測不能なのは軍事面での競争だ。 米国防総省は間もなく、中国の進出を抑止するための戦略をまとめる。これをバイデン政権が承認すれば、すぐに具体的な動きが出てくる。 日本や韓国に配備する軍事力の強化、台湾の防衛に向けた一段の軍事的関与、南シナ海における中国海軍の行動に対する軍事的圧力の強化などだ。 もちろん中国はこうした動きに対抗する。だが、この先の1年以内に中国軍と米軍が交戦する可能性は極めて低い。中国は自軍の能力がアメリカより劣っていることを自覚しているし、アメリカにも中国と戦争する気はない。 つまり、少なくとも短期的には、台湾は安心していい。 中国は今後も台湾に対する軍事的な威嚇を続けるだろう。それが偶発的な衝突を招く可能性はあるが、全面的な戦争にはなるまい。 ===== 頭痛のタネは2つ 扱いが難しいのは新型コロナウイルスの起源について完全かつ透明性の高い調査を求める国際社会の圧力と、来年2月に迫る北京冬季五輪のボイコットを叫ぶ声の高まりだ。 中国はこれまで、どちらの問題でも強硬姿勢を貫いてきた。ウイルス起源の再調査は拒み、五輪ボイコットの主張には非難を浴びせている。 新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から流出したという臆測に関しては、とにかく嵐の通り過ぎるのを待ちたい。しかし、仮にも流出説を裏付ける信憑性の高い証拠が出てくれば、中国の国際的イメージは取り返しのつかないほど傷つく。 証拠が何も出ず、五輪ボイコットを決める国が一つもなかったとしても、今度の冬季五輪で大きな政治的成果を出すのは難しい。 ウイルス変異株の流入が怖いから、中国政府は各国選手団とその関係者以外の入国を認めない可能性が高い。そうなれば盛り上がらない。華やかな五輪で中国の「ソフトパワー」をアピールしたい習の目算は狂う。 そもそも中国には、スケートを除けば冬の競技種目でメダルを狙える選手がほとんどいない。夏の大会でメダル量産・国威発揚を期す日本とは違う。今の中国指導部に、北京冬季五輪を楽しみにしている人などいない。 (※ニュースを読み解き、教養を磨く方法と今後の世界のトレンドを奇才モーリー・ロバートソンが伝授。13の国・地域別に「羅針盤」となる解説記事を盛り込んだ本誌7月6日号「教養としての国際情勢入門」特集より)
Source:Newsweek
中国共産党100周年、習近平の「今後」を予測する