2021
06.30

ミャンマーの翡翠利権は再び軍に握られた<報告>

国際ニュースまとめ

<ミャンマーに莫大な富をもたらし、腐敗の温床でもある翡翠は軍の手に。しかし産地では採掘を争う戦闘が再開、無法地帯と化している> 国際人権団体グローバル・ウィットネスが発表した最新の報告書によれば、ミャンマーの軍部は今や、富の源泉たる翡翠市場とその利益を完全に支配している。 軍事政権は現在、翡翠の採掘に関する決定権を持っており、採掘許可を与える立場にあると、報告書の共著者であるキール・ディーツはAP通信に語った。富と紛争をもたらしてきた翡翠の採掘を完全に支配したことで、軍は権力を確固たるものにするための資金と影響力を手にした、と報告書は述べている。 グローバル・ウィットネスをはじめ人権団体や環境保護団体は、ミャンマー軍に対する制裁の強化を求めている。 「ミャンマーの天然資源の輸入を禁止し、それに伴う金銭の取引を停止して、ミャンマー国軍が国の天然資源を売却して受け取る資金の量を制限するかどうかは、国際社会に任されている」と、報告書は指摘した。 AP通信によると、アメリカとイギリスは以前、ミャンマー宝石公社および軍幹部とつながりのある企業に制裁を課していた。だが、ミャンマーから輸出される翡翠の大半は、違法な手段で中国に渡っている。 以下に、AP通信による報道を引用する。 法の支配が崩壊 ミャンマー最北端のカチン州は、中国と国境を接する翡翠の名産地だが、同州ハパカントの翡翠鉱山周辺で戦闘が再開したことで中国国境地域がますます不安定になっている、とグローバル・ウィットネスは報告書の中で述べた。 国軍と民族ゲリラはカチン州で何年も戦いを続けてきた。だが同時に、世界で最も豊かな翡翠鉱床の採掘による利益を分け合うために手を組んでいた。そのため、公共の利益に投資される国家資産をもたらすはずの翡翠産業は、腐敗の温床となった。 グローバル・ウィットネスは、腐敗による損失を年数千万ドルと見積もっている。 鉱山周辺は事実上の停戦状態にあったが、2月1日に国軍が政権を握ったクーデターのせいで、停戦が中断され、翡翠の生産地帯で戦闘が再開された、とグローバル・ウィットネスおよび他の専門家は指摘している。 「法の支配が完全に崩壊しており、非常に不安定な状況だ」と、ディーツはAP通信に語った。 2016年に政権に就いたアウンサンスーチー率いる文民政府は、鉱業界の腐敗の一掃に努めたが、あまりはかどらなかった。政府は翡翠の採掘許可の発行や更新を停止した。新しい法律で採掘許可を最長3年に制限したことで、かえって急ぎの違法採掘を促した。 ===== 今では国軍が採掘権を与える力をもち、忠誠心を買うのも敵となる組織を引き裂くことも思いのままだと、とディーツは語る。 翡翠産業は、貴重な石をできるだけ多く掘り出そうと誰もが先を争う無秩序な競争状態になっている。 グローバル・ウィットネスは以前の報告で、翡翠産業が軍事エリート、麻薬王、コネでつながった企業のネットワークによって支配されていることを指摘した。状況はほとんど変わっていないと、この地域に詳しい人々は言う。 この状況は紛争の両当事者に、生産を最大化する動機を生み出し、環境に莫大な負荷を与えている。地域には50万人近くが流れ込み、鉱山で働いたり、鉱山の選鉱くずを選んだりしながら、貴重な翡翠を含む石を探している。露天掘り鉱山の斜面は不安定で、土砂崩れが頻発し、これまで数百人が死亡している。 鉱業の利益は、鉱山や貿易ルートを掌握している人々に奪われる。 「翡翠は、たぶん石油を除いて軍にとって最も利益のあがるセクターだ。銅のような他の鉱業も多くの利益をもたらしている。レアアースはそれほどではないが、かなり重要だ」と、ミャンマーの環境問題を研究するプロジェクト・マジェのディレクター、エディス・ミランテは言う。 翡翠の大半は中国行き アメリカとイギリスは、軍の指導者とその家族、および軍が支配あるいは関係している企業に対しても制裁を科している。 だがミャンマーで生産された翡翠のほぼすべてと他の宝石や真珠の大部分は、違法なルートを通じて中国に輸出されることが多いため、宝石産業に対する制裁の潜在的な影響は限定的だ。 採掘作業の多くは、ミャンマーの採掘会社と手を結んだ中国企業によって行われている。軍は数十年前から、鉱業から莫大な利益を引き出してきたし、カチン州には地域で採掘された翡翠の大半が行き着く中国への密輸ルートに課税する取り決めがある。 だが今、カチン州の人々は軍のクーデターに抗議しており、対立は激化しているとハーバード大学アッシュセンターの東南アジアの専門家であるデ-ビッド・ダピスは言った。 「多くの戦闘は、誰が何をどれだけ得るかをめぐるもの」であり、関係する当時者は誰も互いを信頼できる状態にはない、とダピスは電子メールで述べた。「軍はとにかくがっちりと守りを固めており、妥協する気配はない」 過去には、戦闘が国境を越えて広がり、中国の民間人が死亡あるいは負傷したこともあった。 だがより深刻で長期的な問題は、現場が無法状態になっていることだ。法の支配が機能を失っているため「麻薬の生産や動物の密輸など違法行為が過熱する可能性があり、中国政府はそれを翡翠の問題よりも懸念している可能性が高い」と、ディエズは述べた。 「不安定なものは不安定なもの生み出す。そのことを、特に中国政府が理解することは本当に重要だ。まさに中国との国境付近で最悪の事態が発生するところなのだ」と、彼は語った。

Source:Newsweek
ミャンマーの翡翠利権は再び軍に握られた<報告>