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芸歴55年、渡米20年。でもまだ道半ば。真田広之さんがハリウッドで挑み続ける「東西の壁」【2022年回顧】
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※2022年にハフポスト日本版で反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:9月14日)
映画の聖地ハリウッドで活躍する日本人俳優――。その代表格として真っ先に名前があがるのは、真田広之さんだろう。
2003年の『ラスト サムライ』出演を機に渡米してからおよそ20年。その間途切れることなくハリウッド映画に出演し続け、トム・クルーズさんやキアヌ・リーブスさんなど数々のアクションスターと共演。国内外に、その活躍を楽しみに待つ人たちが大勢いる。
真田さんが熱心に取り組むのは、俳優業だけではない。海外映画で描かれる誤った日本に関する表現を正したいーー。ハリウッドで数少ない日本人として映画作りに携わる真田さんは、いくつもの「壁」を感じた経験から、様々な場でそう発信し、アドバイザー的な立場を務めた作品もある。
今年の夏には、ブラッド・ピットさん主演の注目作『ブレット・トレイン』公開にあわせて3年ぶりに日本に帰国した。
20年にわたる挑戦と変化。そしてハリウッドでのチャンスが広がっている今、次世代に伝えたいこと。真田さんにインタビューで聞いた。
日本の小説、ハリウッドでの映画化
ブラット・ピットさん主演の『ブレット・トレイン』は、人気作家・伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』の実写映画化。伊坂さんの海外著作権を扱うエージェントであるCTBがハリウッドのスタジオに直接売り込み実現した。
舞台は日本。個性的な殺し屋たちが続々と東京発京都行きの超高速列車「ゆかり号」に乗り合わせ、死闘を繰り広げていくミステリーアクションだ。
ギラギラとネオンが煌めく東京の街、漢字、ヤクザ、マスコットキャラクター…本作で描かれるのは、誇張された「日本」の姿で、その描写が正確だとは言い難い部分もある。
『デッドプール2』(2018年)など、アメコミ原作の映画を手がけてきたデヴィッド・リーチ監督は、「観客が現実逃避できるようなクレージーな旅ができる映画にしたかった」とこだわりを明かしている。コロナ禍での制作となり、来日は叶わず、ハリウッドのスタジオでの撮影だった。
真田さんは、この映画の世界観にどう向き合ったのだろうか。
「アクションとコメディ、そこに家族の人間ドラマや復讐劇が深く関わっており、その点を大事にしました。超高速列車のセットを見た時から、漫画やアニメのようなポップでスタイリッシュな世界観だとはっきり伝わってきたので、リアルさを追求するより、この作品にあった面白い方法があるのではと考えました」
日系俳優、アンドリュー・小路さんとの出会い
本作の「未来のおとぎ話的な日本」を楽しんだという真田さんだが、一方で、自身が演じた「家族の歴史」や「復讐劇」というストーリーの核の部分においては、譲れない面もあったという。
「伊坂さんの原作からインターナショナルな作品にうまくアダプトし、それによって今までにない新しい作品が生まれたと思います。
ただ、そこで唯一日本人のパートを任された。そこは妙にウエスタナイズ(西洋化)されず、ちゃんと言葉でも動きでも、“日本人”として違和感なく見えるよう、細部を大事にしました。なおかつ国際的なキャストの中で浮かないように全体を見てバランスもとる。それが一番の個人的なテーマでした」
真田さんが演じた剣の達人のエルダーは、作品の終盤で本格的に登場。ピットさん演じる「世界一運の悪い殺し屋」のレディバグと重要な会話を交わし、ストーリーの転機を作る。10人の個性的なキャラクターが死闘を繰り広げる本作で、最も重みのある人物を演じた。
本作では、嬉しい出会いもあった。エルダーの息子・キムラを演じたのは、日系イギリス人の俳優、アンドリュー・小路さんだ。真田さんが大事にしたという「家族の歴史」というドラマ部分を共に作り上げた。
ルーツを同じくする俳優仲間との出会いを、こう振り返る。
「アンドリューとは、リハーサルの初日から初めて一緒に仕事するとは思えないケミストリーを感じました。実年齢でも親子ほど年が離れていて、カメラが回っていない時でも劇中と同じく『親父』『息子』と呼び合っていましたね(笑)。その関係性が映画に反映されていれば良いなと思います」
ハリウッドでの道を切り拓いてきたアクションへの熱意
1966年に6歳で子役デビューした真田さんは、10代前半からアクションを磨き、剣道・空手から日本舞踊まで様々な稽古をつけてきた。硬派な時代劇からお茶の間で人気のトレンディドラマまで幅広く出演し、30代までに日本で唯一無二のトップ俳優となった。
1999年には、故・蜷川幸雄さん演出のイギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー公演『リア王』に、唯一の日本人キャストとして出演。その功績が評価され、名誉大英帝国勲章第5位を受勲した。
この海外経験を機に、2003年にはトム・クルーズさん主演『ラスト サムライ』で初めてハリウッド映画に出演。撮影後もアメリカに残り、日本の描写に関して意見を伝えながら映画の完成を支えた。
以降は拠点をアメリカに移し、およそ20年が経つ。真田さんがハリウッドでの道を切り拓く一番の武器になったのは、やはりそのアクションだった。
『ウルヴァリン:SAMURAI』『モータル・コンバット』『ジョン・ウィック』などの数々のアクション大作に出演。たとえわずかな出番の役でも、突出した存在感で観客の視線を引きつけてきた。
『ブレット・トレイン』で初共演となったブラッド・ピットさんは来日時、そんな真田さんを「その人が入ってくると場が静まるような人、尊敬できる人」「この映画の心臓部」だと賞賛した。
アクションについて語る真田さんは、ひときわ真剣な眼差しを見せる。
「アクションはドラマの沸騰点で生まれるもの。一番大事なのは、その動きの後、演じる役にどういう感情が生まれ、どうドラマに着地するか。時として、それを理解していない監督がコレオグラフィー(剣戟や戦闘シーンの立ち回りやその演出)をやった時に、アクションが感情やストーリーと分離してしまう。これは一番避けなければいけないことです」
そんなこだわりを持つ真田さんも、本作のメガホンをとったデヴィッド・リーチ監督には信頼を寄せる。リーチ監督は、ハリウッド屈指のスタント集団「87eleven Action Design」の創設メンバーの1人で、『ファイト・クラブ』などでピットさんのスタントダブル(役者に代わって危険なシーンを演じるスタントマン)も経験。真田さんとは『ウルヴァリン』でスタントコーディネーターとして共に仕事をした仲だ。
「彼(リーチ監督)はアクションを心から理解しているから、信頼していろんな意見を交わしました。キャラクターの感情やバックグラウンドを常に意識しながら、現場で出てきたアイデアをうまくまとめて掛け算にする。その結果観客がエキサイトしてくれるアクションが実現できました。
アクションを理解した監督が撮ってくれ、努力が無駄にならない。それは役者にとってとても心強く幸せなことです」
本作では、「剣の達人」として、仕込み杖(中に刀身が隠されている杖)を使った気迫に満ちた剣さばきを披露している。
「日々どんなトレーニングをしているのか?」と尋ねると、真田さんは「昔のようにハードにやっていると身体がもたない」と言って笑う。
「ここ最近は最低限のことだけですよ。ウォーキングと軽いランニング、ストレッチや筋トレ。鍛えるというより『健康を保つ』くらい。演じる役によってファイティングスタイルは変わるので、役が決まると、それに求められる訓練や動きをその都度構築していきます。撮影が終わったらまた真っ新に戻して、次の役に向かっていきます」
ハリウッド進出「チャンスは広がっている」
8月末、東京や京都で共演者のピットさんやアーロン・テイラー=ジョンソンさん、リーチ監督らと取材を受け、イベントで観客と交流する真田さんの姿からは、国を越え、互いの文化を学びながら映画を作ることに情熱を注げ、心から楽しんでいる様子が伝わってきた。
芸歴55年、渡米20年。
俳優として濃密なキャリアを積んできたが、ゴールに到達したという気持ちは未だないという。
「日本人としてハリウッドで活動する上で、今も東西の壁を感じることはある。でも、チャンスはどんどん広がってきています」
新しい挑戦はこれからも続く。1980年放送の同名ドラマのリメイク作である、江戸時代の日本を描く『将軍 SHOGUN』では主要キャストとして出演したほか、初めてプロデューサーを務めた。本作には『モータル・コンバット』で共演した浅野忠信さんや、二階堂ふみさんなども出演し、多くの日本人キャストを率いることになった。
ここ数年で、ハリウッドでは、アジアにルーツのある俳優を起用した映画やドラマが注目を集め、ヒット作も生まれている。演じる役はまだ限定的ではあるものの、日本の若手俳優のハリウッド進出も増え始めている。
この20年でハリウッドの変化を体感してきたという真田さんにも、「若い世代に架け橋を残したい」という思いがある。
「大事なのは、チャンスが来た時に臆せずチャレンジできるように準備をしておくことです。言葉や文化、その国の映画作りのシステムなど、しっかり学んでおく。そして、人との出会いを大切にする。日本にいる時からやれることはしっかりやっていれば、扉が開く時が必ず訪れると思います」
(取材・文=若田悠希 @yukiwkt /ハフポスト日本版、撮影=藤本孝之)
▼作品情報
『ブレット・トレイン』
ブルーレイ&DVD&4K UHD発売中、各種配信サービスで好評配信中
原作:伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川文庫刊)
監督:デヴィッド・リーチ
脚本:ザック・オルケウィッツ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
Source: HuffPost