11.25
「キラキラ女子」と揶揄された企業が18億円の調達。「本気」の起業家は、女性たちの「解放」を目指す。
「それって、キラキラ女子が集まるコミュニティー?(笑)」
女性向けのキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」を設立した2017年当時は、そんなふうに揶揄されることも少なくなかった。
「女性が女性のためにつくるサービスだというと、スケールが小さそうだとか、本気ではなさそうだとか。先入観を持たれることが多かった」
運営するSHE代表の福田恵里さんは振り返る。そんな視線を今、「実績」で振り払おうとしている。2022年10月、シリーズB(スタートアップにおいて事業が成長軌道に乗り始めた段階)で、約18億円の資金調達に成功した。
シーライクスは、主に20~30代の女性を対象にしたキャリアスクールだ。入会金15万円、月額利用料1.5万円のサブスクリプション(定額利用)で、ウェブデザインやマーケティング、ライティングなど32コースから好きなものを選んで学べる。
オンラインでの受講が中心だが、学習の中で生まれた疑問点などを気軽に相談できる勉強会、目標設定や学習計画をサポートするコーチングの機会が備えられている。人とのつながりの中で自身に必要なスキルを考え、学んでいけるため、「恐れることなく、トライ&エラーを重ねられる場」(福田さん)が実現されている。
起業のきっかけは、大学時代までさかのぼる。留学先の米サンフランシスコで、同世代の起業家に刺激を受けた。
「私と同じ20歳前後の女性が、『動画版インスタグラムをつくる!』と意気込んで、プログラミングやデザインを学び、アプリ制作に夢中になっていました。日本ではまだ、インスタが一般的になっていなかったころです。自然と私も興味が湧いて、勉強を始めました」
でも、日本に帰国して気づいたのは、そんな自分は「マイノリティー」だったのだということ。
「エンジニアに占める女性の比率は、当時調べると7%ほどでした。プログラミングの勉強会に行こうとしても男性ばかりで肩身が狭いし、スキルを身につけた先のキャリアも見通しにくかった。『私なんかが新しいことを学んだところで意味がない』などと、挑戦する前から自分の可能性に蓋をしている女性たちが多いとも感じました」
自分自身も、周りの女性たちのことも、解放できる場をつくりたくて起業を決めた。実務的なスキルを教えるだけでなく、つまずきそうになったときに支え合える「つながり」をスクールの機能として実装しているのは、そのためだ。
定期的なコーチングで聞き取られる受講生の価値観やスキル、学習の履歴などの情報は、独自のデータベースに蓄積される。これを活用し、より効果的なコーチングを実施したり、受講生一人ひとりに合う学習計画を提示したりする技術の精度も、今後はいっそう高めていく。スキルを身につけた人に対して企業などからの業務をあっせんする仕組みも拡充する。
女性のキャリア支援の先に見据えるのは、「誰もが自分の可能性を信じられる社会」の実現だ。
プライベートでは2022年9月、第2子を出産した。節目となる資金調達のタイミングと重なり、経営との両立には苦労があったのではないか。
女性起業家の割合が少ないスタートアップ業界では、妊娠や出産などのライフイベントに対する理解が浸透していないとされる。「妊娠したことを投資家に伝えたら、決まっていたはずの資金調達の話が白紙になった」といった話を、福田さん自身も耳にしたことがあるという。
だが、この1年を振り返る表情は晴れやかだった。
「株主からも、新しくお話しした投資家の皆さんからも、ネガティブな反応をされることは全くありませんでした。最近ではVC(ベンチャーキャピタル、新興企業を対象にした投資会社)が、投資先に占める女性起業家の比率を2割まで引き上げる方針を打ち出し、達成するなど意識変革が進んでいます。この2~3年で、ジェンダーギャップを業界の課題として位置づけ、『変わろう』という連帯が生まれてきていると感じます」
また、SHEのメンバーたちにも大いに助けられたという。
「アガりますね!」「めちゃめちゃ気合い、入りました」――。妊娠したことを報告すると、返ってきたのは心強い言葉ばかりだった。2019年に第1子を妊娠したときもそうだった。現在の社員数は約90人で、2年前の5倍近くの規模。それにもかかわらず、「全力応援」の明るい雰囲気は変わらなかったのだ。
女性経営者が出産することになれば確かに、一時現場を離れざるを得なくなる局面はある。いまだにネガティブな視線を向ける人がいるのは、それをリスクと考えるからだろう。だが一方で、不測の出来事は常に起こりうるのがスタートアップ企業の日常だ。女性の出産だけを「乗り越えられないリスク」と捉えるのは筋が通らない。「壁は乗り越えるためにあり、経営者の出産も例外ではない」――そんな「当たり前」が、SHEのメンバーには共有されていた。
「私が意思決定しないと回らない組織、成長しない組織では意味がない」と福田さん。第1子を妊娠したときから、役員層の一人ひとりに「期待する役割」を伝え、「意思決定していい範囲」も明確にした。トップに依存せず、自走できる組織づくりに力を注ぎ続けてきたからこそ、出産前後の体調が思わしくないときも、事業を前に進めていくことができた。
「カオスは恐れるべきものではなく、自分や会社が強くなるための気づきの機会と捉えています。その信念が、一緒に働く仲間の隅々まで届いていると実感できたことは、うれしい発見でした」と語る。
「経営者で2児の母」というパワフルに映るキャリア。実現の秘訣を尋ねても、自身の手腕を誇る言葉は少ない。口を突いて出るのは、頼れる仲間たちの名前ばかりだ。その中には、ともに子育てを担いながら働く起業家の夫、憲仁さんも含まれている。
自身より若い世代から「憧れのロールモデル」だと言われることも増えてきた。ただ、自分には「ロールモデルという言葉はかっこよすぎる」と感じている。
「『経営者』というと、意志が人一倍強くて、独自のアイデアを持っている立派な人、という印象を持たれがちです。でも、実際に起業してみると、感覚が少し違います。私は、自分が他人と比べて『強い』とも、とりわけ秀でた部分があるとも思いません。いたって、普通。失敗もたくさんします。だからこそ、自分と同じ弱さを持つ人たちの背中を押すサービスに情熱を注いでいきたい。『一緒に頑張ろう!』って言いたいです」
Source: HuffPost