06.23
ファストフード店の近くに住んでも大丈夫…米研究、体重増の通説を否定
<11万人の医療記録を精査した研究により、ファストフード店やスーパーの近くに住んでいても、体重への影響はほぼないことが判明した> ファストフードを買いやすい環境に住むと、自然と体重は増えてしまうのだろうか? 直感的には、そのような因果関係があるようにも思える。例えばハンバーガーショップや牛丼屋などが近くにあれば気軽に利用してしまい、次第に体重は増えそうなものだ。 逆もまた然りで、スーパーの近隣に住むと、理想的な体重を維持しやすいとする説がある。新鮮な食料品がすぐに手に入り、自炊の敷居が一段下がるためだ。スーパーまでの距離が遠く出前に頼りがちな場所に住むよりは、より積極的に料理をする動機付けが働くことだろう。 このような考え方は必ずしも空論というわけではなく、きちんとした学術的なコンセプトにもなっている。都市計画の分野には「建造環境(built environments)」という用語があるが、これは人工的な環境が人間の日々の生活に影響を与えるという考えに則ったものだ。 ファストフードの例では、不健康な食品を入手しやすいという建造環境的要因が食生活に影響を与え、平均的には周辺の人々の体重を増加させる作用が想定される。ところが、アメリカで発表された最新の研究により、人々が住む街の環境と体重増加にはほぼ関連がないことが判明した。 ビッグデータの分析で判明 研究は米ワシントン大学などが実施したもので、肥満を専門とする学術誌『インターナショナル・ジャーナル・オブ・オベシティ』上でこのほど結果が発表された。研究チームを主導したのは、公衆医療栄養学センターに勤めるジェームズ・バスキウィックス博士だ。 バスキウィックス博士たちは、体重と住所を記録している過去の医療データが役に立つと考えた。そこで、ワシントン州の保険機関であるカイザー・パーマネンテが所有するビッグ・データから、匿名化処理を施したうえで、18歳から64歳までの被保険者・約11万5000人分の電子カルテを得た。 分析にあたり博士たちは、地区ごとの店舗密度に注目している。街を1600メートル四方、および5000メートル四方のブロックに分けてファストフード店の密度を調べ、各人が住むエリアの店舗密度と肥満指数(BMI指数)の変動のあいだにどのような関係があるかを分析した。店舗密度が高いほど、平均的に各個人宅からファストフード店までの距離が短く、より気軽にアクセスできると考えられる。 結果、ファストフード店舗の密度はBMI指数の経年変化にほとんど影響していないことが判明したという。基準となる年から1年後、3年後、5年後の3つのパターンで体重の変動を分析したが、いずれのパターンでも店舗密度とBMIの変化に有意な相関は見られなかった。 本研究はファストフード店の多い地域に住む人々の不安を取り除くとともに、都市計画における教訓ともなりそうだ。バスキウィックス博士はワシントン大学が発表したリリースのなかで、「結論として私たちの研究は、肥満の流行を抑制したい場合、運動場やスーパーマーケットを設けるなど、建造環境の面から安易に解決することはできないということを示しています」と述べている。 ===== 気にすべきは都市の密度 肥満問題が深刻化するアメリカでは、都市ごとにファストフード店の展開度に顕著な差がある。また、とくに多くの店舗が見られる地域ほど肥満状態の人の割合が多いことが知られている。バスキウィックス博士たちの研究はこの事実と矛盾するようにも思えるが、博士はその点をどう捉えているのだろうか? 博士の説明によると、ジャンクフード店の多さが肥満を招いているわけではなく、所得格差によって貧しい人々が一定の地域に住まざるを得ず、こうした土地に割安なファストフードの出店が集中しているのだという。店があるからよく食べるようになるのではなく、もともとファストフードに頼りがちな人々はある程度固定されており、そうした人々が特定のエリアに引っ越してきやすい、という背景があるようだ。 一方、体重の経年変化と最も密接に関連していた要因は、都市の密度であった。今回の研究では、都市の密度が高い地域に住んでいる人ほど、経年変化による体重増加が抑えられているという傾向が出た。歩ける範囲に店が多くあるほど日常的に徒歩で済ませる習慣を獲得しやすく、健康増進に一役買っている模様だ。 これは、都市計画の分野で注目されるようになってきた「ウォーカビリティ(歩きやすさ)」の指標にも通じる考え方だ。住宅密度や商業密度が高く、そのほか適度な緑地があるなどの条件が整ったエリアは、ウォーカビリティが高いと判定される。このような地域ほど住民のBMI指数が低い傾向にあることが一般に知られている。 都市の構造から受ける体重変化を気にするのであれば、必ずしもファーストフード店が立ち並ぶエリアを避ける必要はない。その一方で、生活に徒歩を取り入れやすい地域を選ぶことで、無意識の日常的なエクササイズをこなしやすくなるようだ。
Source:Newsweek
ファストフード店の近くに住んでも大丈夫…米研究、体重増の通説を否定