06.18
有人宇宙船の打ち上げで中国は宇宙「領有」の野望へ一歩
<「先に奪わなければ奪われる」──中国にとって宇宙は南シナ海と同じ征服対象> 中国は6月17日、独自に建設中の宇宙ステーションに向けて初の有人宇宙船を打ち上げ、宇宙に恒久的なプレゼンスを確保する野望に向けて動き出した。 中国が初めて地球の大気圏外に踏み出したのは、1970年4月に人工衛星「東方紅1号」の打ち上げに成功した時。それから半世紀で中国は世界有数の宇宙強国の仲間入りを果たし、既に地球低軌道での長期ミッションや、月や火星での探査計画を明らかにしている。 2019年1月、中国は世界で初めて月の裏側(月は自転と公転が同期し常に地球に同じ側を向けているため「裏側」がある)に月面探査機「嫦娥4号」を着陸させた。「嫦娥」の名は、中国神話の月の女神にちなんでつけられた。 2021年12月には「嫦娥5号」が地球に帰還。44年ぶりに月のサンプルを地球に持ち帰った。 中国の月面探査は3つの段階に分けて計画されており、サンプルを持ち帰ったことで第3段階が完了。これを受けて中国国家航天局(CNSA)は、2023年から2027年の間にさらに3回、月面探査機の打ち上げを目指している。2030年までに(ロシアの協力を得て)月の南極に研究用基地を建設するのがその狙いだ。 火星にも進出する計画 CNSAとロシア連邦宇宙局は17日、国際月面探査ステーション建設プロジェクトの詳細を発表。今後10年にわたって共同で建設を推し進め、1972年にアメリカのアポロ計画が終了して以来初めての有人月面探査を実現する計画だ。 アメリカ同様、中国も太陽系のさらに奥にまで視野を広げている。5月15日には、火星探査車「祝融(中国神話の火の神にちなんだ名前)」が火星の表面に着陸。探査車の着陸成功はアメリカに次ぐ世界2番目の快挙だった。6月11日には祝融から送られてきた「自撮り写真」が公開され、火星に掲げられた中国国旗の写真に国民は沸き立った。 火星探査機「天問1号」のミッション成功を受けて、中国は今後20年以内に火星から岩石や砂などのサンプルを地球に持ち帰る無人ミッションを計画している。次の探査機打ち上げは2028年の予定だ。さらに中国は2040年から2060年にかけて火星の有人探査を行う計画を立てており、最終的には火星に人が滞在できる拠点を建設したい考え。 中国がその両方の計画で後れを取る可能性も十分にある。NASAと欧州宇宙機関(ESA)は既に、探査車パーシビアランスが火星で集めたサンプルを、2030年代に地球に持ち帰る計画を明らかにしている。また宇宙開発企業スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、2050年までに100万人が暮らせる火星都市を建設すると言っている。 ===== 中国の宇宙移住計画は、まずは火星よりもう少し「近場」から始めるしかないだろう。17日の「神舟12号」の打ち上げは、5年ぶりの有人ミッションだった。 全てが計画どおりに進めば、聶海勝飛行士(56)、劉伯明飛行士(54)、湯洪波飛行士(45)の3人は中国にとってこれまでで最も長期にわたる3カ月のミッションを実行し、2度の船外活動を行うことになる。 3人の宇宙飛行士は、4月29日に打ち上げられた中国独自の宇宙ステーションの中核モジュール「天和」の初めての居住者となり、居住空間や生命維持システムなどの試験を行う。来年末に完成すれば、宇宙ステーション「天宮」は、国際宇宙ステーション(ISS)が運用を終了(早ければ2024年の見通し)した後も残ることになる。 天宮の建設に向けて予定されている打ち上げは、全部で11回――有人ミッションが4回、無人補給船が4回、モジュールの打ち上げが3回だ。これらの打ち上げを終える2022年後半以降に、中国は宇宙空間での恒久的なプレゼンスを維持できるようになる。 無人補給船の「天舟3号」は9月に打ち上げが予定されており、その翌月には「神舟13号」の有人ミッションが予定されている。さらに2022年には実験モジュール「問天」と「夢天」が打ち上げられ、T字型の宇宙ステーションを完成させる予定だ。 宇宙開発は領有権争い ISSが運用を終了すれば、長期にわたって宇宙空間に残る実験施設は「天宮」のみになる。中国は深宇宙の研究を支援するために、2024年には宇宙望遠鏡モジュールの「巡天」を打ち上げる計画だ。 だがその前にNASA、ESAとカナダ宇宙庁が2021年11月にジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡を軌道上に打ち上げる予定だ。同望遠鏡は、31年前に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡の後継機となる。 天宮の完成は、中国の壮大な宇宙開発の野望における、きわめて重要な成果となる。アメリカの政治的反対により、中国の宇宙飛行士たちはこれまで一度も、ISSへの参加を認められていない。 いつか技術面の優位性を利用して、宇宙を単独で支配するという中国の目標について、一部の有識者たちは警鐘を鳴らしている。中国の野心的な宇宙開発計画には透明性が欠けるという指摘や、宇宙開発が2049年までに軍の近代化を目指す取り組みと関連している可能性が高いという懸念の声もある。 アナリストたちが中国の宇宙開発の隠された動機について説明する際に、よく引き合いに出されるのが、月探査計画の設計責任者である葉培建の存在だ。 ===== 彼は2019年に国営テレビ中国中央電視台(CCTV)とのインタビューの中で、中国の宇宙開発を、日本が実効支配する尖閣諸島(中国名・釣魚島)やフィリピンが領有権を主張するスカボロー礁(中国名・黄岩島)の領有権主張になぞらえた。 インタビューの中で葉培建は、次のように述べた。「宇宙は海洋、月は釣魚島、そして火星は黄岩島だ。行ける時に行っておかなければ、将来の世代に責められることになる。ほかの者たちに先に行かれて乗っ取られれば、行きたくても行けなくなってしまう」 現時点では、中国の宇宙開発計画はまだ、アメリカの技術や革新の標準に照らして大きく後れを取っている。アメリカは中国よりも遥かに大規模な予算を持っているが、それも永遠に続くとは限らない。 フランス国際関係研究所のマーク・ジュリアン研究員は、1月に発表した論文の中で、中国の宇宙開発の野望は国家の発展、軍の強化と列強との競争の上に築かれていると結論づけた。 「国家の威信や国際的な名声に加えて、宇宙というのは中国にとって、アメリカとの技術的な格差を埋めるべき、そしてアメリカの弱みを見つけたい戦略的な分野なのだ」と彼は書いている。 ===== ■有人宇宙船「神州12号」の打ち上げと切り離し ■「神州12号」と宇宙ステーションの中核施設「天和」のドッキング
Source:Newsweek
有人宇宙船の打ち上げで中国は宇宙「領有」の野望へ一歩